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『フクシマの正義 「日本の変わらなさ」との闘い』著者・開沼博インタビュー

震災後増殖した、“正義”を騙る浅はかな知識人や市民を疑え

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――現状の東京の人々の様子を見ていると、3.11以降出てきた、脱原発運動に励む人や、子どもに放射能の影響が及ばないようにと熱心に情報収集をする親御さんたちがいる一方、ニュースや大方の人の普段の会話の中に、原発事故や震災についての話題が出てくることはほとんどなくなっていて、すでに3.11が忘れられてきているという印象があります。開沼さんは『「フクシマ」論』の中で、「時が経てば原発の問題は忘れられてしまう」と書かれていましたが、現時点でのこのような状況は予想されていたことでしょうか?

開沼 予想する仕事をしているわけではないですが、予想通りです。予想通りという意味では、先ほども少し触れたように、震災直後は「今回の震災を機に、人々の価値観などが変わる」と興奮しながら盛んに主張する、中央の「知識人」が沸き上がっていましたが、結局はテンションが上がっちゃったがゆえの一時的なノリだったことが露呈してしまったのも予想通りです。『フクシマの正義』に書いたエピソードで言えば、とある中央の知識人が、震災直後、「原発は重厚長大型のプラント産業だから、完全に衰退期にあり、この事故を機に世界的に脱原発の動きが広まるだろう」と「世界の未来を大胆予想」していたのを見ました。

 しかし、中国、インドはじめ多くの新興国は、3.11を経ても原発新設姿勢を崩さないどころか、むしろ加速しているように見えるところすらある。先進国を見ても、「独・伊は脱原発じゃないか」とやたら持ち上げる傾向もありますが、ほかではそんな動きはほとんどない。米国ではスリーマイル島事故によって凍結されていた原発新設許可が34年ぶりに出てすらいる。そういった知識人のもつ「こうあるべき」という理想・理念と、「こうである」という現実を区別できない幼稚さ、浅はかさ自体は震災前からあったものなんでしょうが、震災後もそれは是正されず、その一方で3.11の忘却が進んでいる。まず、たいして勉強もせず、調査もしていないのに「こうあるべき」と言う前に、「こうである」という事実を見る必要がある。

――その姿勢は『フクシマの正義』の中でも一貫していますね。そして、「こうあるべき」という理想・理念を語りたいロマンチストからは、「現状を肯定するのか」とか因縁を付けられると。

開沼 そうですね。別に、今の状況を肯定したいわけではありませんが、「こうあるべき」がないと不安で仕方ない、必死すぎる人が「知識人」にもそうでない人にも多い。「橋下徹現象」的なカリスマ待望論と「脱原発のうねり」や「在日外国人の特権を許さない」的な巨悪でっち上げ論は、同じ「こうあるべき切望」の表裏にある。いずれも圧倒的な「こうあるべき」を打ち立てる上での媒介的表象を求めているわけです。

 冒頭の話に戻りますが、よくわかりもしない状態で「こうあるべき」も何も言えない。よくわかりもしないのに「CO2削減に役立つエコなエネルギーとして原子力があるべき」と言われて「へー、なんか良い感じだね」と受け入れた結果が現状なのにもかかわらず、です。「こうあるべき」を無理に出そうとするから、議論に無理が生じる。例えば、事実として「こうである」ということと、理念として「こうであるべき」と思うことを混同し始める。そのことにより、見失うものや不可能になるコミュニケーションの大きさを自覚すべきです。

――いまも週の半分以上は福島やさまざまな現場に通い、一方で文章を発表したり講演をしたりしながらさまざまな人々の声を聞いている開沼さん自身が、『フクシマの正義』の出版に当たり率直に感じていることを最後にお聞かせください。

BusinessJournal編集部

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