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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第9回

大手新聞社、紙の発行部数は水増し、ウェブ版は水減らし!?

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 日亜は紙+ネット版の価格を設定せず、「日亜ネット新聞」も紙より100円安く販売したため、ネットへのシフトが起こり、ネット版の部数は30万部まで増えた。

 これに対し、大都は紙+ネット版の価格を設定した。その価格は4500円で、事実上の値上げを狙った。過去の記事検索の機能などのサービスを付け、大々的に宣伝したが、セット版の販売はあまり伸びていない。ただ、日亜と同様に紙からネット版へのシフトは起こり、ネット版だけの部数は25万部になっている。

 しかし、新聞業界では、このネット版の部数は日亜、大都両社の発表ベースで、実際はその倍くらいの部数、それぞれ60万部、50万部になっているとささやかれていた。普通、大手新聞社は広告料に連動する紙媒体の部数を水増しするが、ネット媒体は紙媒体の部数減を加速させかねないので、過少発表していると疑っているのだ。

 両社にとってネットへのシフトは予想以上で、今や紙媒体の部数減が頭痛の種になっているのは間違いなかった。当初はテレビコマーシャルを使い大々的にネット版を宣伝していたが、最近は控えている。それでも、その効果はなく、業界ではネット媒体の部数について「水増し」ならぬ「水減らし」しているとの見方が広がっているわけだ。

「君も取締役なんだから、ネット版に紙が食われて困っているのを知っているだろう」

 村尾は部下の小山を窘(たしな)めた。

「大都さんはうちなんか以上に、ネット版へのシフトで困っているんだぞ。部数トップの大都さんは直販の販売店が多いだろ。紙媒体が減るということは、販売店の死活問題なんだ。うちは大都さんなどの販売店に相乗りの地域が多いから、社内であまり問題にならない。それも大都さんが矢面に立ってくれるおかげだ。そうですよね、先輩」
「ふむ。だが、『ネット版大都新聞』と『日亜ネット新聞』はやめられない。時代の趨勢だからな。もちろん、合併後は新聞同様に一本化する。それに合わせて、今まで日本にない『新しいネット媒体』を出して新しい読者を開拓したい」
「今日ね、君たちを呼んだのは、新媒体の『日亜経済ネット新聞』の中身をどうすればいいか、詰めてもらうためなんだよ。2人の間では、経済情報に特化して、ネットから新しい紙媒体にリンクさせる工夫もできないか、とおぼろげながら思っている。最初にちょっと話した紙の『新しい新聞』というのはこのことだ」
「要するにな、両社の新聞もネット版も1つに統合し、新たに経済に的を絞った『日亜経済ネット新聞』と、それに連動する紙媒体を発刊する、それが我々の構想だ。うちの立場からすると、紙を売る販売店へのアメも必要なんだ。ない知恵かもしれないが、絞ってくれよ。だから、大筋合意した合併の中身を君たちに話しているんだ。おい、村尾君、合併比率のことをまだ話していないな」

●のめない合併比率

 松野は村尾の説明を敷衍して、次を促した。

「話しましょう。存続会社は規模の大きい大都さんで、うちの株主は日亜株5株で、大都株1株をもらうことにする方向だ」
「え、日亜株5株で大都株1株ですか」

 村尾の説明を聞いて、北川と小山が期せずして同時に声を上げ、顔を見合わせた。

「そんな比率じゃ、うちの株主は損ですよ。せめて日亜株6株か7株で大都株1株ですよ。うちの含み資産は膨大ですよ」

 大都の北川が口を尖らせて声を張り上げた。

「北川さん、何を言うんです。3株で1株が妥当です。昭和45年の合併直後に売却して減ってはいても、うちも優良資産がかなり残っています。『有楽町日亜オフィスビル』は相当な収益をあげていますよ」

 有楽町日亜オフィスビルは、日本ジャーナリズム研究所資料室が入居しているビルだ。合併前の日々本社ビルの跡地に建てたもので、その賃料収入は日亜の重要な収益源だった。

 合併後25年間、日亜は旧日々ビルに本社を置き、大手町の旧亜細亜本社ビルには製作部門と印刷部門だけを残した。

 しかし、経済情報重視路線の奏功で急成長、製作部門と印刷部門を有明に取得した土地に建てた工場に移転、旧亜細亜本社ビルの跡地に現在の新本社ビルを構えた。そして、旧日々本社ビルの跡地にオフィスビルを建設したのだ。新築当時こそ、金融危機のあおりで、テナント集めに四苦八苦したが、今は稼働率100%近い。

 小山の発言に北川が再び反駁した。

「うちはそんなオフィスビルが全国主要都市にあるんだぞ。有楽町周辺にも日亜さんの2つ分のテナントビルがある。松井デパート銀座店だよ」
「2人ともやめないか。お互いの優良資産を張りあっても仕方ない。大都と日亜は合併するんだ。つまらんことで喧嘩するな」

 身を乗りださんばかりだった2人が座椅子に腰を戻すのをみて、松野が続けた。

「合併後の人事と合併比率は俺たちが決めることで、君らは関係ない。合併比率は資産内容をベースに株主構成などを勘案して決める。とにかく、新しいネット新聞の構想を早急に練ってくれ。今日は難しい話はもうおしまいにして飲もう。まだ鍋も残っているぞ」

 松野に促され小山が鍋の灰汁を取り、タレを追加、3分の1ほど残っていた大皿の具を入れた。北川は松野と小山のグラスを集め、自分のと合わせて焼酎のお湯割りをつくった。

 グラスを受け取った松野が再び、口を開いた。

「1週間後にもう一度集まる。それまでにたたき台くらいはつくって持ってきてくれ。じゃあ、もう一度、乾杯しよう」
「待ってください。そんなに急ぐんですか」

BusinessJournal編集部

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