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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第11回

大手新聞社幹部、取材しない、記事は書けないが不倫はお盛ん

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「何だ。小山君、松野先輩にまた怒られるぞ」

 村尾が小山をたしなめた。

「違うんです、社長。うちにも2人で1人の関係の方がいると思いまして」
「誰のことだ?」
「挨拶のゴーストライターがいるって話を聞いたことがあったもんで……」
「貴様、俺のことか。お前だって似たり寄ったりじゃないか」
「僕は、いろんな部下のつくった挨拶をそのまま棒読みするだけです。特定の奴に頼んだりはしません。すべて部下任せですね。社長は、特定の人に頼んでいるらしいじゃないですか」

 文章の書けない村尾は、記者時代から政治部の1年先輩の常務論説委員長の青羽岳人におんぶにだっこの記者だったという噂が流布していた。

 青羽は取材が面倒で大嫌いだった。記者クラブの席に座って新聞を読むか、1人でトランプ遊びをしていることが多かった。しかし、文章を書くのは苦にせず、後輩が取材してきたネタや、もらってきた官庁文書をもっともらしい記事にまとめるのは長けていた。

 村尾と青羽は官邸記者クラブで一緒になって以来の腐れ縁で、「2人で1人』と陰口をたたかれることはなかったが、2人で1人前であったことは間違いなかった。

 青羽は富島鉄哉が社長を引責辞任した時、勇退するはずだった。しかし、あっと驚く人事で、村尾が後継社長に決まると、村尾が富島を拝み倒し、常務論説委員長のまま残した。
 
 かつて、大新聞の論説主幹とか論説委員長は国家の重大な岐路に際して、政治はもちろん、社会もその言説に注目する存在だった。しかし、今はほとんど目にも留められないのが現実だ。その能力のある人材が論説主幹とか論説委員長のポストに就くことがなく、せいぜい世論に棹差す論説が載るのが関の山だからだ。

●論説委員長の本業は、社長スピーチのゴースト

 その右代表ともいえるのが青羽である。青羽は村尾の1年先輩で、常識的には煙たいはずで、早晩、勇退するとみられていた。「2つのS」(シークレットとスキャンダル)はともかく、「3つのN」(可もなし、不可もなし、実績もなし)、「KY」に合致する人材ならいくらでもいる。それなのに、村尾は青羽を使い続けている。

 社長には社員向けだけでなく、対外的にも挨拶しなければならない局面がしばしばある。しかし、村尾はその挨拶の下書きが書けない。もちろん、アドリブで挨拶する能力もない。青羽にお願いして書いてもらっているのだ。

 青羽のほうは、自分に社会の耳目を集めるような論説を書けないことは自覚している。それでも、論説委員長という居心地のいいポストに居続け、高給を食められるなら、それに越したことはない。2人の利害が一致、いまだに「2人で1人前」の関係を続けている。

「どっちもどっちだな。人に下書きをつくってもらわなきゃ挨拶できないのは変わらない」

 中身はまったくないが、美辞麗句をちりばめた、もっともらしい挨拶や講演が得意の松野が嬉しそうに2人を冷やかし、続けた。

「まあ、はっきりしたのは小山君も村尾君やうちの北川同様に『3つのN』はクリアしている。『2つのS』のほうはどうなんだ。これも村尾、北川と同じか」

 松野はニヤッとして小山を見つめ、右手の小指を上げた。

「今日のメンバーは全員、不倫とか、女性問題はありますよ。それに…」

 村尾が言い淀むと、松野が突っ込んだ。

「なんだ。セクハラ、パワハラか」
「そうなんです。『KY』だけじゃなくて、『SP』も重要なキーワードです」
「『SP』の奴、これほど、上の者にとっては好都合な連中はいないんだ。上には絶対服従だ。彼らを枢要ポストで使えば、権力者にとってこれほどやりやすいことはない」

「SP」と聞いて、松野がわが意を得たり、とばかりにまくしたてた。そして、この発言に気を良くした村尾が引き継いだ。

BusinessJournal編集部

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