ーー宴会の仕切りがうまくいったことで、仕事がうまくいった例があれば教えていただけますでしょうか?
児玉 まず、単純にお客さんが喜んでくれるので、夜の席が増えますね。電話一本で「いま、これから来ない?」と呼ばれることも多々ありました。ビジネスにおいて、取引先に昼間だけではなく夜も会ってもらえることは、大きなアドバンテージです。情報がもらえるとか、便宜を図ってもらえるとか、そんな小さいことではなくて、「お客様と一緒に夢を語れる仲になれる」ということが最強でした。
お酒を飲みながら、こんな仕事をしていこう、こうやって世界を変えていこうという話ができるわけです。もう単なる業者ではなくて、パートナーに昇格するわけです。そうやって宴会で築いた人間関係が、さまざまな大きな仕事をやっていく礎となってきました。
●ハーバード・ビジネス・スクールはパーティー三昧?
ーー米国のハーバード大学経営大学院(ビジネス・スクール)に留学するのは、そのようなテクニックを身につけた後ですか?
児玉 そうです。入社して、7年間サラリーマンをやった後です。ビジネス・スクール、経営大学院といっても、ハーバードの場合は優秀なビジネスマンになるというよりも、優秀なリーダーになることが目指されています。生徒もビジネスマンだけでなく、官僚や軍人、元プロスポーツ選手といった多彩な人たちで、国籍も80カ国以上に上っています。
ーー国内のビジネス・スクールと最も違う点は、どんなところですか?
児玉 経営学に属することなので、科目的には大きな違いはないともいえますが、ハーバードは「できるビジネスマン」ではなくて、「リーダー」を育てることを究極の課題にしています。したがって、「あなたならどうする?」とリーダーの立場で考えることを徹底的にやらされます。また、成績が下位の人は放校されるという厳しい条件があります。そのため、優秀なリーダーを輩出することができ、全米の主要な企業の半分は、ハーバード大のビジネス・スクールの卒業生が占めているといわれています。
ーー国内のビジネス・スクールとは大きく違いますね。
児玉 また、意外に思うかもしれませんが、「パーティ・スクール」とも呼ばれているほど、いろんなイベントやパーティが頻繁に開かれているんです。単にクラスメートの親睦を深めるという意図もありますが、同校の授業はほとんどがディスカッション形式で行われるため、クラスメート同士がとことん議論できる環境が不可欠となります。その環境づくりのためにも、学校側が昼夜を問わずさまざまなイベントやパーティを仕掛けてくるのです。
ーー授業の延長線上に、イベントやパーティがあるわけですね。商社マン時代、仕事の一環として接待や宴会があった状況に似ていますね。
児玉 そう言えるかもしれません。学生のほうもそうした学校側の意図を理解しているので、どれだけ学業が忙しくてもイベントやパーティには必ず顔を出しますし、自分たちでイベントやパーティを主催するようになっていきます。学生とはいっても、さまざまな分野ですでに活躍している社会人ばかりなので、学校のクラスメートであっても、相互に信頼関係を築くことが何よりも大切である、ということがみんなわかっているわけです。
ーー80カ国の人種が集まっていれば、なおさらですね。
児玉 言葉や文化、価値観などが違っているのは当然で、それを前提として、一緒に何かをつくりだしていかなければなりません。その際には、少なくとも信頼関係が結べていなければ話にならないのです。僕もパーティに出たり、主催をするようになるのですが、しばらくすると、自分のパーティを仕切る力が劇的に向上していることに気づいたんです。
ーーどういうことですか?
児玉 ハーバードでは、リーダーシップ論から始まり、戦略、マーケティング、オペレーション、交渉術など、経営学における重要な要素を高いレベルで学ぶわけですが、そういった知識が知らず知らずのうちに、パーティを仕切ることに応用されていったのです。それは、僕だけでなく、他の生徒もそうでした。考えてみれば、パーティ=宴会というプロジェクトを成功させるスキルに、世界最高峰のビジネス・スクールの授業が役に立たないわけがなかったんです。
ーーなるほど。
児玉 しかも、授業を受けたことで、宴会術を体系立てて理解することができるようになったのです。それまでは、宴会術というのは、先輩が行っていることを自分の目で実際に見て、体験して習得するものだと思っていました。「OJT」(=オン・ザ・ジョブ・トレーニング)ですね。それが、ハーバードで学んだ経営学を用いると、体系的に整理・説明ができるようになっていたのです。これは、自分でも驚きでした(笑)。
●48個の宴会術のtips
ーーこれまでは一子相伝のように会得するものであった宴会術が、この一冊に集約され、初めて公にされたわけですね。