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シリアルアントレプレナー・小川浩「Into The Real vol.15」

ビヨンセ、“口パク”疑惑を勝利と名声に変えた“たぐいまれな”危機管理能力

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ビヨンセ・ジゼル・ノウルズ
(「Wikipedia」より)
 現在のソーシャル × モバイル化へと続くWeb2.0時代の到来をいち早く提言、IT業界のみならず、多くのビジネスパーソンの支持を集めているシリアルアントレプレナー・小川浩氏。そんな“ヴィジョナリー”小川氏が、IT、ベンチャー、そしてビジネスの“Real”をお届けする。  

 ネットで動画を観た方も多いかと思うが、オバマ大統領の第二期就任式の国歌斉唱が口パクだったのではないかとの疑惑を糾されたビヨンセの、釈明記者会見での手際は見事の一言だった。

 彼女は集まった記者を起立させたうえで、まずアカペラで国歌を歌い上げてみせ、そのうえで涼しい顔で「質問は?」と言い放ってみせたのだ。歌手としての素晴らしい力量を見せつけられたあとでは、糾弾しようとしていた記者たちも毒気を抜かれたのだろう、口パク疑惑に関する真偽を問う質問にも鋭さはなく、単にどっちだったの? と訊いてみるだけの質問になってしまっていた。だから訊かれたほうのビヨンセも、余裕で「そうだよ、だから何?」という感じであっさり認めたのだ。

 ビヨンセは録音された歌声を流した理由として、事前のリハーサルが十分でなかったことなどを理由として説明し、大事な場面で不測の事故を起こすことを避けるのは、プロの歌手として当然の選択だったと述べた。確かに通常のライブならば、どんな事故も失敗も彼女の問題で済むが、就任式において主役はあくまでオバマ大統領だ。だから、十分な状況で歌えば聴衆を感動させられるアーティストとしてのプライドを捨てて、“口パク”でのパフォーマンスを選んだ。そう、記者たちに納得させたのだ。

 とはいえ、大事な国歌斉唱で、誰もがビヨンセが生唱を披露することを期待しているのは事実であり、“口パク”は失礼じゃないか、というのがそもそもの論点だったはずだ。だから、理由の如何は関係なく、口パクかそうでないか? との糾弾に対して、ビヨンセが何を言おうが言い訳であり、認めた瞬間に本来であれば謝罪をする、という展開になるところだった。

 それをビヨンセは圧倒的な実力と気合でもって(もちろん優れたブレーンのアドバイスがあってこそだと思うが)批判を跳ね返し、理屈では負ける勝負をひっくり返してみせた。

●「謝れば済む」では海外で勝てない

 少なくとも日本人歌手が国家元首の前で同じことをして、同じように叩かれたなら、即座に釈明ではなく謝罪をしたと思う。事実これまでに同じようにマスコミに騒がれて、涙ながらの会見をした芸能人や政治家は少なくない。

 逆に言うと、日本人には「謝れば済む、謝ることで許してもらう」という、原則的に弱者のメンタリティがある。文化といってもいいかもしれない。それはそれで美徳ではあるが、強者の論理が軸となって社会が構成されている欧米諸国や中国には勝てない。
僕がマレーシアで事業をしているときには多くの中国系社員を雇っていたが、彼らのミスに対して叱責しても、「Sorry」と言った社員はいなかった。「自信がない」という様子を示すことは敗北を意味することだし、敗北を認めることは生きている価値がない、ということなのだ。

 メンタリティの問題はどうあれ、負けない、そして勝つことを目的としたときには断固として逆境を跳ね返してやろうという気合と、そのための方法が必要だ。ビヨンセと彼女のスタッフは、口パク疑惑がメディアを賑わせた瞬間に対策を講じて、どうこの逆風を跳ね返すかの作戦を練りに練ったはずだ。謝罪する、というオプションもあったかもしれないが、結果的に、まず記者に生唱を聴かせるというジャブで出鼻をくじき、そのうえで局面を変えるというプランを選び、謝ったりうやむやにするどころか、「やはりビヨンセはすごい」という感動と感心を世間に与えることに成功した。

 ビヨンセに倣うべきは、「簡単に謝ってはならない」「謝っても許してもらえるとは思うな」という肌感覚を強く持つこと。そして勝つためのプランを組み立てる。「何がなんでもひっくり返す」という気合と戦略を持って簡単に敗北を認めない、勝ちにいく。そういう図太さを持たなければならないのだ。

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●小川浩(おがわ・ひろ) 
シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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