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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第25回

大手新聞社長、巨額財テク損の存在を認める!? 合併相手の追及を受け…

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 しかし、この日の村尾の行動は普段と同じではなかった。普段より遅めの午前10時半過ぎに出勤すると、秘書によほど緊急でない限り部屋に入るなとくぎを刺し、社長室に一人籠った。いつも以上にゲームに熱中することで、自分の脳裏に由利菜が浮かばないようにしたいという、無意識が働いていた。

 それでも、一度だけ携帯電話が鳴った。小山からだった。案の定、宿題になっていた新媒体の構想が煮詰まらなかった、という報告だった。小山はしきりに宿題ができなかったことを詫びたが、村尾は気にも留めなかった。それは想定済みのことだったからだ。携帯電話を耳に当てながら、パソコンのトランプゲームの手を止めることすらなかった。

 小山から電話があったのは午後3時前で、ほんの数分、話しただけで、その後も村尾はトランプゲームをやり続けた。ゲームに熱中していれば、頭の中は空っぽになる。実際、怒り心頭の由利菜の面影が浮かぶことはなく、腹痛も起きなかった。幻影におびえた村尾は、松野との約束時間は午後5時だったが、4時半前には本社を出た。

 老女将が案内したのは、先週月曜日と同じ、1階奥の座敷だった。当然、松野はまだ来ていなかった。前回同様、村尾は床の間を背にした右奥の席を空け、左側の奥に座った。お茶を運んできた老女将が部屋を出て行くと、お茶を一口啜った。

 「どうしてかな。もう2人で話すことはないはずだが……」

 松野が前日に決めていた打ち合わせの日程を1日繰り延べる連絡をしてきた時、食事は午後6時からだが、村尾にだけ1時間前に来てくれと言った。会合で新媒体構想について報告する北川と小山の2人を呼ぶ時間は、午後6時から変えなかった。

「1週間くらいで、新媒体の構想が具体化できるはずはない。先輩だってわかっていたはずだ。だから、今日は合併後を睨んで、お互いの秘密を共有する懇親会だと思っていた」

 村尾は松野の意図がなんなのか思案したが、思い当たることはなく、少しイライラし始めた時、入り口の硝子戸が開いた。午後5時ちょうどだった。

●身体検査

 「待たせたかな」

 老女将に案内されて、大都社長の松野が部屋に入ってきて、奥の席にどっかり腰を下ろした。

 「15分ほど早く着いただけですよ。勝手に早く来たんだから気にしないでください」
 「そうか。それならいい。おい、女将、1時間、2人きりで話がある。お茶を持ってきてくれたら、あとは構わないでくれ」

 老女将が頷き、部屋を出ると、日亜社長の村尾が切り出した。

 「2人だけで話があるって、何ですか。合併では先週月曜日に基本合意しているし……」
 「まあ、待て。お茶がきたら話すから。ちょっとした身体検査をしようと思ってな」
 「え、身体検査? なんですか、それ」

 村尾が怪訝な顔をして身を乗り出すと、部屋の引き戸が開いた。老女将は卓袱台の2人の前に茶碗を置くと、「ごゆっくり」と言って出た。松野はお茶に口をつけ、話し始めた。

 「組閣人事の時、身体検査が済んでいるとか、済んでいないとか言われるだろ。あれだよ。合併するんだから、お互いに身綺麗じゃなきゃいかんだろ?」
 「え、身綺麗? そんなこと、するんですか。だって、『2つのS』(シークレット=秘密=、スキャンダル=醜聞)」はお互い様でしょう」

BusinessJournal編集部

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