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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第26回

損失“飛ばし”、不当便宜供与…大手新聞社、合併で次々浮き彫りになる不祥事

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「損失は最大200億円ですし、合併前には全部処理するつもりです。先週月曜日の交渉でも、僕はこの損失処理も前提にお願いしたんです。再検討して『日亜株6株で大都株1株』なんてなったら、社内をまとめきれません」

 村尾はまた座布団を外し、身仕舞を正した。

「君、また同じ手か。もういい。この“飛ばし”以外には、隠していることはないんだな」
「先輩、この一件だって、隠すつもりはなかったんです。大した金額じゃないし、処理するつもりでしたし……。天地神明に誓って、この一件以外には決算で隠していることはありませんから、合併比率の見直しだけは勘弁してください」
「もういい。とにかく、合併するんだから、これからは秘密はなしだ。それでいいな」
「わかりました」

 松野が矛を収めたとみた村尾は少し頭を垂れただけで、座布団を戻し、胡坐をかいた。

●画策

「実は俺の耳には『損を隠しているのは日亜経済出版だ』という情報が入っていたんだ」
「そうですか。それなら、もっと早く聞いてくれればよかったんです」

 現金な村尾は、今泣いた烏がもう笑ったという感じで、笑顔で応じた。

「生意気言うな。いくら後輩でも君は社長だから、君のほうが持ち出すのを待っていたんだ。なんだ、その豹変ぶりは! だから、女をたらし込むのがうまいんだろうが、俺は騙されん」

 松野は冷やかすような調子で続けた。

「あのな。合併後に新媒体を出すことになっただろ。今日はうちの北川(常夫)と、君のところの小山(成雄)君の報告を聞くわけだが、俺は日亜経済出版を使えないかと思っているんだ」
「先輩もそうでしたか。僕も同じなんですよ。日亜経済出版社は、日本を代表する経済雑誌を出しています。それを前提に新媒体を出せばいいんじゃないか、と……」

 村尾はわが意を得たり、とばかりに身を乗り出し、同調した。

 雑誌不況の中で部数は減り続けているが、日亜経済出版社の看板経済雑誌「日亜経済ジャーナル」(日亜EJ)は部数トップの座を維持し続けている。もう1つの季刊誌「日亜エコノミストレビュー」(日亜ER)も日本を代表する経済学者が寄稿する専門雑誌である。

「そんな言わずもがな、なことは言うな」

 松野は、あまりにノー天気な村尾の反応に苛立ちを隠さなかった。村尾も松野もいい勝負だったが、そういう人間に限って、自分がノー天気だなど露ほども思っていないのである。

「君な、だから、俺は心配しているんだ。さっき、俺が『日亜経済出版が財テクで失敗なんて洒落にもならん』と言ったのは、それだからだよ。君はわかっているのか」
「わかっています。日亜経済出版社のブランドイメージが低下することのないように、手筈は整えています。安心してください。まあ、日亜経済出版をどう使うかは、北川君と、小山が来たら話しましょう。その前に、僕の方も1つ、聞いてもいいですか?」

●隠された、社長の不当な便宜供与

 村尾が切り出すと、松野はまた不愉快そうな顔つきになった。

「おい、俺のところにも身体検査をしようというのか。うちには何もないぞ」
「身体検査なんて、めっそうもないですよ。大都さんの決算のことじゃありません。先輩が社長になられて1年くらいたった頃の噂のことです」
「5年前の噂?」
「噂といってもすぐに立ち消えになったようなので、もうお忘れかもしれません。うちのデリバティブの損失の噂も立ち消えになりましたが、実際は火のないところに煙は立たないことは今話した通りです。だから、先輩の噂もどうかと思ったんです」
「……」

BusinessJournal編集部

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