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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第31回

セクハラ幹部の愛人が自殺!?大手新聞社、警視庁へ根回し、遺族には金でもみ消し?

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 その年の大晦日のことだ。深夜、彼女は新宿の自宅マンション12階から飛び降り自殺した。もちろん、大都社会部が警視庁に根回しし、「大都新聞女性社員が飛び降り自殺」などという記事が出ることは抑え込んだ。どこの大企業でも同じだが、マスコミへの露出を防いだ情報も、社内では口伝に伝わるのが普通だ。大都社内でもご多分に洩れず、1週間もすれば社内情報に通じた社員なら誰でも知っている状況になった。それだけで済めば、1〜2カ月のうちに社内でも過去の事件として忘れられていく。

 しかし、この自殺事件、こうした普通の展開にはならなかった。両親あての遺書が残っていたのだ。遺書にはT・Kというイニシャルながら、北川との許されぬ恋に敗れ、絶望して自ら命を絶つところに追い込まれた心情が切々と書かれていた。自殺の原因が北川と知った両親が大都本社に遺書を持ち誠実に対応しなければ、損害賠償を求める裁判を起こすと、直談判にやってきたのだ。自殺から2カ月近く経った時だった。

 当時の大都経営陣は目が点になるほど驚いた。北川を呼びつけて事情を聞くと、不倫関係にあったことを認めた。訴訟沙汰になっても、北川や大都に賠償責任があると認められる恐れは少なかったが、表沙汰になるリスクを避けるため、カネで片付ける道を選んだ。

 村尾と小山の2人は五段重ねの仕出し弁当に箸をつけながら、松野が自殺事件の顛末を説明するのを聞いていた。時折、箸の手を休め、野次馬根性丸出しの真剣な眼つきで、手振り身振りを交え熱弁をふるう松野をみつめたが、酒を口に運ぶことはなかった。

 話題の主、北川はどうだったかというと、俯き加減でお湯割りのグラスを口に運んだり、弁当に箸をつけたりしていた。しかし、対面の村尾と小山をみることはなかった。

 松野があらかたの説明を終え、お湯割りのグラスを取り一息入れた。そして、3人に比べ食べ遅れている弁当に箸をつけた。そんな松野を見て、小山が徐に口を開いた。

「大体わかりました。社長にはまた『お前はKYじゃない』と言われるかもしれませんが、2つ、質問があります」

「もういいだろう。何がわからんのだ」

「申し訳ありません。北川さんは僕と違って離婚はしていないんですか」

「そんなことか。北川は離婚していない。とにかく、今でもアツアツらしいからな。秋田支局時代に言い寄られて秋田美人と結婚して、子供も3人いる。そうだよな」

 松野は脇の北川に顔を向けた。北川が軽く頷くと、小山が続けた。

「そんな事件が起きても、奥さんは平気なんですね。僕とは大違いだ。それとも、うちの社長みたいに、離婚してくれないんですかね」

「今や、北川君は次々期社長の最有力候補だからな。彼女にとっては絶対、別れないほうが得だ。でも、事件当時は違った。普通なら別れるが、そうならなかった。とにかく、彼女はな、北川にべた惚れなんだ。それに、純粋というか、かなり鷹揚な性格で、戻ってくればそれでいいという感じらしい。うらやましい限りだ。なあ、村尾君」

「え、なんですか。僕は関係ありませんよ」

 水を向けられた村尾は戸惑い気味に身を引いた。すると、小山が2問目を質問した。

「松野社長、今は北川さんの話です。うちの社長のことは置いておいて、次の質問です。結局、どんな決着だったのか、よくわからないんです。そこはどうだったんですか」

「実はな、俺も詳しく知らない。同じ経済部でも俺は経済官庁や金融業界の分野、北川は産業界の担当が長く、部下として一緒に仕事をしたことはなかった。それに94年暮れに自殺事件の時、俺は名古屋編集局長だったんでね」

「社長は記者時代の北川さんとあまり接点がなかったんですね」

「そういうことだ。でも、北川を事件から隔離するため、95年春の人事で大阪経済部に異動させている。その時は決着していなかったという話だったが、その年の秋には円満解決した。編集の幹部にだけ、そういう説明があった。多分、カネで解決したと思ったが、そこまでは聞いていないんだな。北川本人に聞くしかない」

「北川さんがしゃべってくれないと、わからないということですか」

 小山は松野の隣に俯き加減に座っている北川のほうに問いかけた。北川はすぐに反応しなかったが、3人の視線が耐え切れず、重い口を開いた。

BusinessJournal編集部

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