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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第32回

大手新聞、企業ニュース大誤報は記者の勲章?お詫び不要で問題視すらされないカラクリ

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「わかったよ。でもな、大誤報でも、経済関係のスクープは当事者が訴訟沙汰なんかにはしない。個人じゃなくて、法人が主体だと、どこかに他人事みたいなところがあるんだ」

 松野がお茶を飲み干し、腰を上げようとすると、部下の北川がもう一度、押しとどめた。

「あと少し、待ってください。まだよくわからないところがあります。法人相手だと、名誉棄損だなんだ、と問題にされないということですか」

「1つはそうだな。でも、大企業という法人は、新聞社と持ちつ持たれつなんだ。リークで特ダネをもらえば、大きく扱って宣伝する。その見返りに、社員に不祥事があったりしたときは、大企業ができるだけ小さい扱いの記事にしてくれるように頼んできたりする」

「それで、虚報で損害を受けても、裁判だと事を荒立てずに大目に見てくれるんですか」

「そういうこと。実際に『日本重工業と東京電気製作所、経営統合へ』の虚報について、日亜に『お詫び』が載ったかい? 誤報に至る検証記事が載ったかい? 載っていないぞ」

「そうですね。『早漏れで交渉が難航している』とかいった記事も載りませんね。日亜しか読んでいない読者からすれば、統合話がまだ生きていると思いかねません。もっとも、まだ虚報から2カ月ちょっとですから、これから軌道修正するのかもしれませんけど…」

「北川、いい加減にしろ。その辺でやめておけ。うちにだって脛傷はあるんだからな」

「そうですよ。大都さんも、某大証券と某大銀行が経営統合するって、大虚報を流して、『社長賞』まで出したことがあります。確か、5年前の正月元旦でしたね」

 小山が、ここぞとばかりに反撃に出た。

「そうだ。ただ、あの虚報から半年後に『交渉決裂で白紙』という記事を載せている。きっと、日亜さんもこれからなんらかの軌道修正はするんだろう。なあ、村尾君」

「もう、いいじゃないですか。そろそろお開きにしましょう」

「そうだな。お開きにしよう。だが、このまま別れちゃうと、わだかまりが残るかもしれない。最後に、俺の真意を話しておく。あのな、経済情報であれば、大虚報、大いに結構、それが俺の考えだ。だから、5年前のうちの大虚報も関係した連中は順調に出世させている。村尾君にも頼みたいが、今年元旦の大虚報も、取材した連中はこれまで以上に取り立ててもらいたい」

「先輩、ちゃんと処遇するつもりです。合併後に創刊する、経済情報に絞った新媒体では中核になってもらおうと密かに思っています」

「そうか。それならいい」

 村尾の答えに、松野は満足げに大きく頷いた。すると、小山が納得顔で洩らした。

「経済情報に限れば、虚報も2つのSになるんですね。よくわかりました」

「ふむ。この点は、日刊金融産業新聞に感謝する必要がある。あそこの社長は20年前、日本銀行総裁人事で大誤報した張本人だ。以来、経済情報では誤報や虚報に寛容な雰囲気が醸成された。だから、合併後に新媒体構想で攻め込める。北川、小山、3月末か4月初めに構想の中間報告を聞く。今度は今日みたいじゃだめだぞ」

 松野はこう締めくくると、立ち上がりかけ、老女将を呼ぼうとした。その時、村尾が少し腰を浮かし、松野を座り直すように両手で制した。

「先輩、待ってください。もっと、大事なことを確認しておきたいんです」

(文=大塚将司/作家・経済評論家)
※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週5月31日(金)掲載予定です。

BusinessJournal編集部

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