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金融活用で児童養護施設支援?専従職員ゼロで“子どもの貧困”に取り組むNPO法人に迫る

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 施設を建て替えるには約4億円かかりますので、もちろんそれだけですべての費用を賄うことは無理です。ただ、申請すれば費用の約7割に相当する補助金を受けることができます。さらに、児童養護施設の場合には、15年とか20年という長期の借り入れが可能で、しかも無利子です。ですから、それらと仕組みと、個人の方の少しずつのご支援を組み合わせれば、施設の状況を劇的に変えることが可能になるのです。

 加えて「Chance Maker」は、寄付集めを通じて、児童養護施設の実情について世間一般の方によく知ってもらうためのPR活動にもつながります。従来の寄付行為は、一部の裕福な方がこっそりと支援するというものでした。私は、寄付をするときにはその寄付先がどのようなところかをよく知った上で支援すべきだと考えています。なぜなら、児童養護施設の現状を改善するためには、施設の実情を多くの人に知ってもらうことが必要だからです。そのためのPR活動と、施設が抱えている課題の解決、これを一緒に実現するのが「Chance Maker」という寄付プログラムです。

 現在、この「Chance Maker」で支援している社会福祉法人「筑波会 筑波愛児園」では、子どもたちにとってよりよい養育環境である小規模施設へ建て替えることが決まっています。12年11月7日に工事の無事を祈念して地鎮祭が行われました。

–そうしたチャンスメーカーの仕組みに、金融を学んだ知識が生かされているわけですね。

 そうですね。金融の知識は、すごく重要だったと思います。施設側の多くの方たちは、施設建て替えの費用の7割が補助金で賄われるという仕組みは知っていたと思いますが、どのように活用すればよいのかという具体策にまで到達することは難しかった。そこで「Chance Maker」では、金融の知識を活用し、ファンドレイジング(活動のための資金を個人、法人、政府などから集める行為)の観点から“仕組み化”しました。

 そして、今後はそのような知識や経験がさらに役立つのではないかと期待しています。施設側は借入金を15〜20年かけて返済していくわけですが、お金を集めたNPO法人自体、20年後も存続しているかどうかわかりません。現在では、集めたお金を施設に渡し、後はお任せしますというNPO法人が一般的ではないかと思います。というのは、この借入金は繰り上げ返済ができないのです。つまり、NPOがたくさんお金を集めても、一度にすべてを返済金として使うことはできず、銀行口座に置いておくしかないわけです。ですから、最悪の場合、想定と違う形でお金が無駄遣いされてしまうということが起こる恐れもあります。

 こうした事態を防ぎつつ、施設側にとっても寄付する側にとっても安全で便利な仕組みは、金融をやっていた人であればすぐに思いつくのですが、一般の人にはなかなか難しいかもしれません。

–今後のLIPの活動予定について教えてください。

 児童養護施設の課題解決ということでは、社会的弱者などの権利主張を代弁する、いわゆるアドボカシーの活動を進めていきたいと思っています。議員や官僚の方々、全国の児童養護施設協議会、業界団体の方などと話をしながら、法制度をつくっていく活動をしていきたいと思っています。それから、企業とのコラボレーションですね。私たちの考えを企業のCSRプログラムなどに採り入れてもらうというような話も少しずつ進んでいます。レストランなどで、「table for two」のように、「これを買ったら10円寄付されます」というような仕組みもつくっていきたいと思っています。

 さらに、単なるお金集めだけではなく、知ってもらう活動もしていかなければいけないと思っています。寄付行為を消費行動に例えてみると、チョコレートを食べたいと思ったときに、知らないブランドと有名ブランドであれば、有名ブランドのチョコレートを買いますよね。それとすごく似ています。特に日本ではほとんどの人がその寄付先を吟味せずに、何かいいことをしたいと思ったときに募金箱にお金を入れるとか、赤十字にお金を送ってみるというような形で寄付をしています。もちろんそれは悪いことではありません。でも、人々が寄付をしようと思ったときに、「児童養護施設のファンドレイジングをしているLIPに寄付しよう」と思ってもらえるように、今後は認知度を上げるための活動が重要になってくると思っています。

●ユニークなNPO法人運営

— LIPと他のNPO法人との大きな違いはなんでしょうか?

 まず、私たちは事務所を持たず、専従職員がいないので、月々3万円ほどの会議室利用料、そして寄付プログラムのプラットフォームを活用する際の手数料くらいしか固定経費がかかりません。そのような最低限の必要経費だけは寄付金の一部を充てていますが、集まったお金の多くを児童養護施設に届けることができることは、他のNPO法人との大きな違いではないでしょうか。これまでの実績では、経費として差し引かれるのは7~10%です。

 もう1つの違いは、メンバーの多くが、ビジネスパーソンとして、それぞれの仕事を持ちながら活動しているということです。しかもそれぞれに専門性が違うので、異なるスキルを集結させて新しい価値を生み出すことが可能だと考えています。

 私たちは12年7月、国税庁長官より認定NPO法人として認定されました。今回の認定有効期間は同年7月16日から5年間ですが、認定を受けたことで、この期間中に皆さんがLIPに寄付した寄付金は、税制上の優遇措置の対象となり、税額控除などの適用を受けていただけるようになりました。

–ところで、慎さんご自身、本業ではプライベート・エクイティ・ファンドで投資業務のプロフェッショナルという顔を持ちながら、金銭的な見返りのない一方、手間と時間がかかるNPO活動を続けている理由はなんでしょうか?

BusinessJournal編集部

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