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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第29夜】

帰化しても消えない在日コリアン差別…韓国籍を選んだ女優・韓英恵

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 両親の予想に反し、彼女は韓国籍を選んだ。「これまでも(在日である)デメリットを糧にしてきたし、これからもそうしたい」と言う。父は「Welcome to my country」とあえて英語で喜びを表現し、母親は「賛成というよりうれしい」と応える。過去にいじめられた経験を持ち、「バレないように生きてきた」と語る英恵だったが、彼女の言葉は強かった。

 僕は以前、彼女が出演した『アジアの純真』という映画のことを思い出した。双子の姉を日本人に殺された在日コリアンの少女が少年と共に毒ガスを手にし、テロを行うという内容だった。キャッチコピーにもなった台詞「見て見ぬフリはもうヤメた」という言葉は、彼女の人生観に大きな影響を与えたそうだ。僕もこの映画を見ているが、正直違和感の残る内容だった。

 凶暴な日本人と暴力で返答する在日の少女という構造は、フィクションの設定が低すぎないか、と思った(しかし、2年前と今の状況はまた違うな、とも思っている)。

 しかし、声を出せない人の想いを代弁し、表現するのがインディペンデント映画のやるべきことだと思っているし、彼女の熱演は素晴らしかった。

 見て見ぬフリができないのが「在日」なんだと思う。彼女のように時期が迫れば国籍の選択を問われ、社会からも様々な視線を浴びせられる。自意識過剰とは思わない。やはりネットやテレビで北朝鮮のことが話題となり、最近では過激なデモを見ると(ちょうどこの番組が放送されていた頃に、新大久保でも逮捕者が出る事件にまで発展していた)、不快を超えた恐怖心さえ感じてしまう。

 僕は英恵に対応した役所のように、日本の社会が変わることはないと思う。ならば個人が覚悟を決めなければいけない。そんなマイノリティとして日本で生きる覚悟を、一つの家族を通して見せてくれた。僕にとっては清々しくてどこか懐かしい「ゆれる」だった。
(文=松江哲明/映画監督)

松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都生まれ。映画監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。ほかの作品に『童貞。 をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)など。また『ライブテープ』(09)は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞。