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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第36回

匿名の手紙とせんさく好きな情報通が、大手新聞記者の平穏な日常を揺るがす!?

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「Thinkstock」より
 【前回までのあらすじ】 見て見ぬふりをするのが “常識”の政治部記者のなか、業界最大手の大都新聞社の深井宣光は特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞した。深井は、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の1通の封書が届いた。ジャーナリズムと無縁な経営陣、ネット市場の急成長やリーマンショックにより広告が急減、部数減と危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。

●代わり映えのない1年

 資料室は、日亜新聞旧本社ビル跡地に建つ「有楽町日亜オフィスビル」の3階にある。

 ジャーナリズム研究所(ジャナ研)本体は、内幸町の日本報道協会ビルに協会事務局と同居しているが、金融危機の真っただ中だった10年ほど前、新築のオフィスビルの入居者集めに四苦八苦していた日亜の懇請で、3階フロアの一角を借り、資料室だけを移転した。

 資料室はスペースの3分の2が書庫である。書庫は入って左側にあり、戦前も含めたジャーナリズム関係の書籍・雑誌などの文献を保存していた。右側の3分の1のスペースが閲覧室だ。書庫に接した左側に閲覧用テーブル、右に応接セットが置かれている。その奥の窓際までのスペースにあるのが6つブースで、それぞれ、デスクとパソコンが置かれている。元々は、内外の閲覧者が書庫の資料などをみながら作業をする場所だった。しかし、利用者がほとんどなく、今は定年後の嘱託扱いの首席研究員2人の居場所になっているのだ。その1人が深井宣光なのである。

 深井は、嘱託になってからの1年間、ここに毎日、午前11時頃に出勤、午後5時半頃に退出する日々を規則正しく送っている。出勤すると、パソコンを起動し、インターネットで新聞各紙のページを閲覧するのが日課だ。元新聞記者の悲しい性なのだろう。そうしないと落ち着かないのだ。そして、昼過ぎに食事に外出、午後1時頃に戻り、また新聞各紙のサイトを閲覧、それから書庫から借り出したジャーナリズム関係の本を読む。

 喫煙家の深井は、午後3時頃に、タバコを吸うために外に出る。その場所は銀座通りであったり、日比谷公園だったりする。20分ほどで戻ると、また借り出した本を読む。そして、午後5時過ぎに、3度目の新聞各紙のサイトを閲覧して資料室を出る。

 これが、この1年間の深井の日常だった。

●同じ匿名の封筒

 資料室に戻ったのは午後0時45分だった。入口のカギは掛かっており、深井はほっとした。開高美舞が昼食から戻っていなかったからだ。自席に着く前に、右側のブースに目をやった。もう一人の首席研究員、吉須晃人(よしすてると)の席だ。デスクの上に、深井のところに送られてきたのと同じ報道協会の社用封筒一点があった。
 「おいおい、俺に来たのと同じじゃないか。出勤した時、なぜ気付かなかったのかな」

 深井は室内を見回し、改めて誰もいないのを確認すると、吉須の席からその封筒を取り上げた。そして、胸ポケットに仕舞ってあった自分宛ての封筒を取り出し、見比べた。
 「切手と消印が同じだし、宛名ラベルも同じだ。やはり、どこにも差出人はない」

 吉須宛ての封筒を元の場所に戻すと、深井は自席につき、スリープ状態にしてあったパソコンを起動させた。いつものようにメールを点検し、新聞各紙のサイトを見始めたが、心ここにあらず、だった。吉須宛てに届いていた封筒が頭にこびりついて離れないのだ。

 封筒、切手、消印、ラベルは全く同じ、届いた時期も同じだからと言って、中身の手紙も同じとは断定できない。その可能性は強いが、中身を見るまでは、はっきりしたことは言えない。中身を確認するには、吉須に頼んで見せてもらうほかない。

 吉須は昨年11月初めから長期の海外旅行に出ており、深井が顔を合わせたのは海外旅行に出る直前が最後だった。出かけてから3カ月半以上経っており、そろそろ、帰ってきて顔を出してもよさそうな時期ではある。だが、まだ深井は吉須に出会っていなかった。

 そんなことを考えていると、資料室のドアが開いた。
 「ただいま」

 美舞が昼休みから戻ってきたのだ。
 「深井さん、早かったのね。私の方が早いかと思っていた」

 深井は自席から立ち上がり、閲覧用テーブルのところまで出てきた。
 「ほんのちょっとね。早かったのは10分くらいかな。…あのさ、少し気になっていたんだけど、吉須さん、もう世界一周旅行から帰ってきたの。知っている?」

 深井は前日の月曜日、デスクの郵便物がなくなっているのに気付いていた。吉須が旅行から帰ってきたとはわかっていたが、気づかなかったふうを装い、情報を引き出そうとした。