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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第36回

匿名の手紙とせんさく好きな情報通が、大手新聞記者の平穏な日常を揺るがす!?

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●平穏な日常に開いた小さな穴

 深井が資料室に戻ると、美舞はいなかった。否応なく、右側の吉須のブースが目に入った。デスクの上に日本報道協会の封筒がぽつんと置かれている。

 30分ほど経ったろうか。ドアの開く音が静寂を破った。美舞が戻ったのだ。
 「長いタバコだったね。3、4本吸ったのかい? 煙もうもうのところで、体に悪いぞ」
 「余計なお世話。でも、違うの。喫煙室って、このビル全体から来るでしょ。日亜の子会社や関係会社も入居しているから、そっちの〝タバ友〟ができるの。ダベっているうちに時間が経っちゃったの。吸ったのは2本。それに、面白い話、聞いたわよ。聞きたい?」
 「いいよ。聞きたくないな」
 「あ、そう。深井さんは大都出身だから日亜には関心ないか。そんならいいけど、絶対、聞いたら喜ぶこと請け合いよ。でも、『聞きたくない』という人に聞かせる暇はないの。私、また出かけないといけないの。いいでしょ?」
 「どこに行くんだい?」
 「報道協会ビル。本体の事務部の方に呼ばれているの。午後5時には戻るわよ」
 「誰も来ないから、別にいいけど、閉館時間の5時半までには戻ってきてくれよ」
 「大丈夫。資料室関係の連絡事項があるらしいの。それを聞いて帰ってくるだけだから」
 「でも、向こうに行くと、おしゃべりの相手がたくさんいるじゃないの」
 「心配しないで。大丈夫よ」

 美舞はまた出て行った。深井は丸テーブルの隣にある応接セットのソファーに身を沈めた。そして、センターテーブルに足を乗せ、目を瞑った。
 《〝面白い話〟ね。舞ちゃん、何を聞いてきたのかな》

 美舞には関心のないそぶりをしたが、一瞬、深井の気持ちは動いた。多分、日亜の不祥事やスキャンダルを巡る噂か何かだろうと思ったからだ。しかし、井戸端会議の大好きな美舞のことだから、そのうち、雑談の相手をすれば、すぐに聞ける。今は美舞と長時間話したくない、という気持ちが優先したのだ。だから、最初は〝面白い話〟のことが浮かんだが、すぐに〝差出人不明の手紙〟が深井の頭の中を埋め尽くしてしまった。

 深井は、これからの20年をジャーナリズムと完全に縁を切って過ごそうと決めている。しかし、ジャナ研に出向してから、新聞業界の歴史を調べていることからも伺えるように、喉に刺さった小骨のような、ジャーナリズムに対する未練も残っていた。〝手紙〟がその小骨を刺激し、平穏な深井の日常に小さな穴を開けたことは間違いなかった。

 美舞が資料室に戻ってきたのは閉館時間の午後5時半、ぎりぎりだった。
 「なんだ、深井さん居眠りしていたの」
 応接セットのテーブルに足を乗せ、目を瞑(つむ)っている深井の姿を見て、声を張り上げた。

 「ちょっとうとうとしていただけさ」
 「私、もう帰るけど、深井さん、どうするの?」
 「俺も、もう少ししたら帰る。でも、戸締りはして帰るから、先に出てもいいよ」
 ソファーから立ち上がった深井は、あくびをしながら答えた。

 「じゃ、私はパソコンの電源を落としたら、帰るわ」
 「吉須さんはさ、ここに来る時、何時頃来ることが多いの?」
 「そうね。午後5時から6時の間かな。でも、なんでそんなこと聞くの?」
 「ずっと会っていないし、今度、会ったら旅行の土産話を聞きたい、と思ってね」
 「さっきも言ったけど、多分、彼、まだ関西よ。携帯に電話すればいいじゃない。職員の住所録持っているんでしょ。それに携帯の番号も載っているわよ」
 「いや、そこまでして彼が『いつ立ち寄るか』確かめる気はないんだ。まあ、日本にいるなら、そのうちに立ち寄るだろう。俺は大体、ここに午前11時頃から午後6時頃まではいるんだから。これまでも、吉須さん、昼前後に来たこともあるよね」
 「神出鬼没。いつ来るかだけじゃなくて、時間帯もわからないのが正直なところよ。こっちから連絡取らないなら、神のみぞ知るね。じゃあ、私、失礼します。戸締りはよろしく」

 美舞が資料室を出ると、深井は自分のブースに戻り、スリープ状態のパソコンを起動、メールをチェックしながら、携帯に電話するかどうか、迷った。
 《まだ、関西に居る可能性が高いんだと、電話しても仕方ないな》

 結局、深井は吉須の携帯に電話せず、資料室を出た。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

【ご参考:第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週8月2日(金)掲載予定です。

BusinessJournal編集部

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