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「ダイヤモンド」vs.「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(8月第4週)

『伝え方が9割』は、他の実用書に出てくるテクニックばかりなのに、なぜベストセラーに?

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なんの9割なんでしょう? 『伝え方が9割』(佐々木圭一 著/ダイヤモンド社)
 「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/8月24日号)は、「伝える技術 なぜ『伝え方が9割』なのか」という特集を組んでいる。「伝え方次第で相手の行動は変えられる。日本のサッカーワールドカップ出場決定に狂喜乱舞する若者たちを、軽妙な語り口で鎮めた“DJポリス”のように。つまり、伝え方は、人生を大きく変える力を持っているのだ。いつでも誰でも使える『伝える技術』を網羅した特集で、あなたの人生も変わるかもしれない」という内容だ。

 コピーライターとしての17年に及ぶ経験を基にした、佐々木圭一氏の著書『伝え方が9割』(ダイヤモンド社)は36万部を突破するベストセラーになっている。その佐々木氏とのパブリシティ企画で、自社の単行本を週刊ダイヤモンドで特集するという、ダイヤモンド社がよくやる手法だ。出版社としては、宣伝の相乗効果が期待できるのだろうが、読者にとっても、本のエッセンスがわかるのでありがたい。なにより、ベストセラーとなる本は中身が薄く、エッセンスだけで十分ということがよくあるからだ。

 巻頭のインタビューで佐々木氏は、ベストセラーの理由について「ツイッターやフェイスブックなどが爆発的に広がったことによって、誰もが人に評価される時代が突然やって来ました。(略)書き方、伝え方をどうすればいいか、誰もが考えざるを得ない時代になっています。(略)日本のものづくりの技術は本当に素晴らしい。ただ、みなさん悩んでいるのは、素晴らしい技術やその技術によってつくり上げたものの良さが、うまく伝わっていないことです。(略)ものはいいのに、その良さがうまく伝わっていない。そういう気持ちが強まっているのだと思います」と語っている。

 伝え方のポイントは「相手の心の中を想像した上で伝え方を変えると、相手も自分もハッピーになれる。その結果、自分の思った方向に行くし、相手も納得してくれる。本のコンセプトとしては、“伝える技術”というよりも、“相手を想像する技術”といったほうがより正確かもしれません」という。

 つまり、相手の立場に立った「強いコトバ」選びが大事だということだ。例えば、「君の企画書が刺さるんだよ。お願いできない?」と相手の認められたい欲を利用したテクニック。「これは私の勝利ではない。あなたの勝利だ」(オバマ大統領の演説より)と正反対のワードを前半に入れるテクニック(ギャップ法)、同じワードを繰り返す「リピート法」などが紹介されている。

 売り文句の「17年の経験で発見した『伝え方の法則』」にしては、これまでのスピーチの実用書に出てくるレベルのテクニックが並ぶ(とくにオバマ大統領関係のテクニックは、かつてのオバマ大統領演説集といった本で語られたテクニックではないか)。これまでの実用書の著者は、コミュニケーションの研究者などが多かったが、今回のように「博報堂出身のコピーライター」というブランドがベストセラーに大きく寄与しただけなのかもしれない……と疑いたくなる。

 また、今号はタイアップが多すぎだ。特集「Part 1 いつでも誰でも使える! 伝え方の技術」では、「最強コラボ実現! “週刊ダイヤモンド”ד伝え方が9割”דNISSAN あ、安部礼司 BEYOND THE AVERAGE” 安部礼司の伝えまくる1日」と「佐々木圭一氏プライベートレッスン AKB48期待の新星佐藤すみれはどう変わる?」といったタイアップが企画されている。

 今さらのラジオとのタイアップが「最強コラボ実現」、AKB48のメンバーは「期待の新星」と紹介するなど、どうも大げさなフレーズが目立つ。「17年の経験で発見した『伝え方の法則』」というのも大げさだ。そういえば、特集には「佐々木圭一氏直伝!伝わるメールの書き方 感情は30%増でちょうどいい」というのもあった。どうも、この『伝え方の法則』は「3割大げさに表現する技術」というのが適切なのかもしれない。フレッシュマンには役に立つ内容か。

●来年1月に任期満了するバーナンキFRB議長の後任は?

 多くのビジネスマンが読んでおきたいのは「特集2 バーナンキの誤算 米QE3(量的緩和第3弾)撤退の綱渡り」だ。「金融危機以降、先進各国の中央銀行は自国経済を復活させるべく、『異例の金融緩和策』の世界に入り込んだ。(略)ところが、経済が完全復活を遂げない中で、金融緩和の副作用を恐れた米国がいよいよ“撤退”に追い込まれている」とある。金融緩和の副作用とは、無期限の資産購入策(QE3)によってFRB(連邦準備制度理事会)のバランスシートの規模が拡大すればするほど、その縮小・正常化に膨大な時間を要するという深刻な事実があるからだ。

 また、来年1月にはバーナンキFRB議長が任期満了を迎える。本人は再任の意向を示しておらず、後任選びが動き出している。過去のケースでは後任の指名は、早くて秋ごろ。現在では「次期議長候補はサマーズ元財務長官とイエレン副議長の2人に絞られた。8割の確率でサマーズ」(市場関係者)だという。

 サマーズは元財務長官でオバマ大統領とも近い。しかし、2005年、女性軽視と取られる発言でハーバード大学長を辞任したことに見られるように、頭が良すぎて、周囲とのあつれきが起きかねない懸念がある。なお、叔父はノーベル経済学賞受賞者のポール・サミュエルソンだ。

 イエレンは就任すれば初の女性議長。物静かで温厚な性格で、市場関係者からも評価が高く、議会もイエレン推しだ。ただし、オバマ大統領との距離はサマーズより遠い。なお、夫はノーベル経済学賞受賞者のジョージ・アカロフだ。

 FRB議長は大統領が指名する。いずれにせよ、新議長の役目はスムーズなQE3からの撤退となる。市場と対話する本当の「伝える技術」が求められるのだ。
(文=松井克明/CFP)