NEW
「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第42回

交際費もすべて取材費で損金処理がまかり通る巨大新聞社 社長は代々、不倫問題を抱える

【この記事のキーワード】

, ,

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「Thinkstock」より

【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。旅行に出ていた吉須と4ケ月ぶりに再会し、吉須から例の封筒について話を聞こうと画策する深井だったが……

 大手新聞は、交際費として課税処理されなければならない費用も、取材費として非課税処理することが長年まかり通っていた。民主主義を守る言論報道機関という“印籠”があり、国税当局が見て見ぬふりを続けてきたからだ。大都の場合、平の記者は正当な取材費だって上司の了解を取らないと使えないが、キャップクラス以上は自由に使える。さらに、部長以上になれば、交際費も割り当てられる。

 烏山凱忠が向島に頻繁に出入りするようになったのは、政治部長時代の30年ほど前だ。そこで、カネ離れのいい烏山にすり寄ってきたのが20歳代後半で、いささか薹(とう)が立った年増芸者、秀香(ひでか)だった。もてた経験のなかった烏山が秀香に溺れるのに時間はかからなかった。そして、20年ほど前の専務時代に向島の料亭街の片隅に「バー秀香」を開店させた。

 以来、烏山は連日連夜、茶坊主どもを引き連れて「バー秀香」に繰り出すようになった。

●愛人の店に連日入り浸っていた前社長

 ナッツをつまみながら、後ろを振り向き、吉須晃人が手を上げた。ボーイを呼ぶためだった。
 「スコッチの水割りをもう一杯ずつ」

 ボーイが席にやってくると、深井宣光に同意を求めるように目配せして注文し、続けた。
 「そのバーが“アフターファイブ社長室”といわれていたところだな」
 「『バー秀香』っていう名前です」
 「そこに毎日、入り浸っていたのか」
 「特に“魚転がし事件”がわかってからは、そうだったようですね。まあ、毎日というのは誇張されているでしょうけど…。新本社ビル建設も『バー秀香』で決まったっていう話です」

 「いつも一緒だったのが谷(卓男)副社長で、松野(弥介)さんは寄りつかなかったのかね」
 「いや、そんなことないですよ。松野だって自分の社長の芽がなくなったわけじゃないから、烏山には面従腹背でした。谷の半分くらいの頻度で付き合っていました。でも、谷を後継社長にする構想も練られているのは、薄々知っていたでしょうから、途中で引き揚げることが多かったようです」
 「向島とここは近いよな」
 「ええ、近いですね。でも、なんでそんなこと聞くんですか」

 「いや、ちょっとな。それより、隠蔽工作のほうはどうなったんだ」
 「辞任の半年前に、事件は表沙汰になりました。あこぎな取り立てに走ったから、当然なんですけどね。烏山は『社内から情報漏れしているんじゃないか』と疑い出したんです」
 「犯人探しでもやったのかね」
 「やりました。実は烏山が社長にこだわったのは報道協会長ポストに就きたかったこともありますが、新本社ビルのお披露目を自分の手でやりたい、という欲もあったと思います。だから、報道協会長ポストの芽が消えても、10年社長をやるつもりだったんです」

 「『二兎追う者、一兎も得ず』だったんだな。それで、犯人探しはどうなった?」
 「烏山が松野を疑っていたのは間違いありません。谷を使って躍起になって調べたけど、証拠は挙がりませんでした。“魚転がし事件”は、損失を少なくしようと、言論の自由を看板にする新聞社とはとても思えない、なりふり構わない回収だったんで、事件がばれて当然だったです」
 「そんなときに、『風聞を穿つ』に烏山の愛人スキャンダルが載ったんだな」
 「そうなんです。また烏山は疑心暗鬼になって、谷に調べさせました。でも、駄目でした。これも当たり前なんです。烏山は『バー秀香』に何人も連れて行くわけですから。社内で知らない奴は一人もいないくらい周知の事実でしたから」

 「でも、どうして烏山は、自分の後を谷にしなかったんだい?」
 「烏山の本音は谷でしたよ。烏山の目に、松野は愚鈍でカケしか能のない男にしか映っていなかったのは間違いありません。でも、『大都通販』の巨額損失という現実が重かったんです。ジャーナリズムを掲げる最大手の新聞社が通販会社などを作って儲けようという発想自体が批判の対象になってしまったんです」

●現社長の密会場所

 深井と吉須のふたりがバーに腰を落ち着けて1時間近く経っていた。
 「あと15分で午後9時か。もう一杯飲むか。どうだい?」

 深井が頷くと、吉須は手を上げてボーイを呼んだ。注文を終えると、店内を見回した。
 「俺たちのあと、客は何組か入ったかね。そっちからは常時目に入るだろ」
 「だって話しているんですよ。常時、店内をみているわけではないです」

 深井は困ったような顔をして改めて店内をぐるりと眺めまわした。
 「新しいのは若いアベックだけですね。男同士は我々だけ、あと4組がアベックです」
 「そうか、まだ9時前だからな」
 「店に入る前、『エキサイティングな場面に遭遇するかも』と言っていましたけど、それと関係あるんですか」
 「そう。あるんだ。だから、もう一杯頼んだのさ」

 「もう少し待つ、そういうことですか」
 「そうだが、さっきの話の続きだけど、松野さんと谷さんのこっちのほうはどうなんだい?」
 吉須が右手の小指を上げた。