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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第46回

ホステスをめぐりヤクザとトラブルになった巨大新聞社の専務 ライバル新聞社長は二股不倫

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 「誰?」
 「(太郎丸嘉一)会長秘書よ。この間、電話で話してたでしょ」
 「会長秘書?えーとなんて言ったっけ…」
 深井は少し考え込んだ。

 「杉田(玲子)さん?」
 「そうなの。私の6年下だから、まだ52歳よ。私は今も続いているとみているわ」

 美舞は昭和50(1975)年入社だったが、玲子は61年入社だった。
 「村尾さんは確かジャナ研に出向していたよね」
 「彼は彼女の入社する1年前に日亜に戻ったから入れ違いだったけど、例の合コンで知り合ったの。入社して半年後には目配せしてふたりでしけ込む関係になっていたわ」
 「本当にそうなの?でもね、村尾さんには記者の愛人がいるって、もっぱらの噂だよ」
 「知っているわ。芳岡由利菜でしょ」

 「そう、その彼女だよ。二股っていうこと?」
 「そんなこと知らない…芳岡って記者、最近までニューヨーク特派員だったでしょ。彼女がいない間は、杉田さんが村尾社長と付き合っていたのは間違いないわ」
 「どうしてわかるの?」
 「それは女の勘よ。でも、自信あるわ。それより、問題はこれからよ」

 「なんで?」
 「芳岡って記者、日本に戻っているから…」
 「やっぱり、そうなの?」
 「私、先週初め報道協会ビルに行ったでしょ。火曜だったかしら。そこで、彼女が2週間前に帰国した、って聞いたの。でもあなたみたいな“浦島太郎”さんがどうして知っているの?」

 「“浦島太郎”はひどいよ」
 「だって、自分でそう言っているじゃないの」
 「それはそうだけど…」
 「わかったら、答えて」

 「10日くらい前、出勤する時、地下鉄の永田町駅で見たんだよ、彼女に似た女性をね」
 「そうだったの。でも、帰国したとなると、杉田さんとの関係、どうなるかしらってね」
 「ああ、そういうことか。今度、吉須さんに聞いてみるよ。彼は日亜出身だから…」
 「でも、杉田さんと村尾社長の関係を知っているのは、ジャナ研の年増の女性職員だけよ。日亜社内じゃ、知っている人はほとんどいないわ」

 「聞いてみて損はないだろ」
 「そうだけど、気を付けてね」
 「わかった。もうひとつ、教えてほしいことがあるんだ」
 「何?」

 「大都から資料室にスパイみたいな奴が送り込まれてくるらしい。本当かね」
 「え、それ間違いよ。日亜よ。村尾さんが吉須さんを監視したいらしいわ」
 「そんなこと、なんで知っているの?」
 「この話も先週初めにタバコ部屋で聞いたの。言ったでしょ、『聞きたくないか』って」

 「ああ、俺が『聞きたくない』って言ったな。悪かったよ」
 「そうよ。大都の松野(弥介)さんってアバウトじゃないの。あなたの監視など思い浮かばないの。でも、村尾さんは陰険よ。私、合コンで何度も一緒したから知っているの」
 「そうか。で、今度来るスパイは何ていうの?」
 「伊苅直丈(いかりなおたけ)っていうの。あなたより1年下で、私と同じ50年入社。吉須さんと同じくらい大柄という話よ」

 「今度、会ったら聞いてみる。今日はありがとう。そろそろ蕎麦を食べて帰るか」
 「そうね。そうしましょ」
 深井は手を上げて、せいろ蕎麦を2枚注文した。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

【ご参考:第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週10月11日(金)掲載予定です。

BusinessJournal編集部

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