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マック、新価格戦略の行方〜縮む“胃袋”、売上減に挑むカサノバ新体制の狙いとは?

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東京都内のマクドナルドの店舗(「Wikipedia」より/Paul Vlaar)
 8月、日本マクドナルドホールディングス(HD)傘下の中核事業会社、日本マクドナルドの社長に就任したサラ・カサノバ氏が同社再生策として打ち出したのが、主力商品であるハンバーガーの地域別価格差を広げることだった。

 海外のマクドナルドでは立地に応じて価格を変えることが多いが、日本ではほとんどの外食チェーン大手は全国一律価格を採用している。マクドナルドは2007年から全国の店舗を6つの地域に分け、それぞれ別の価格帯で販売する地域別価格制度を取り入れた。

 カサノバ氏は9月13日から新しい価格モデルを導入した。同じ都道府県内でも、駅前やロードサイド、商業施設内など商圏ごとに9つに細分化し、立地に応じた価格政策を強化した。例えば看板商品「ビッグマック」の場合、これまで地域によって290~340円の4段階になっていた。これを310~390円の7段階にし、東京などの首都圏では大幅な値上げとなった。価格差は最大50円から80円に広がった。一方「チキンクリスプ」などの「100円マック」シリーズや120円のハンバーガーなど低価格商品の価格は据え置いた。

 マクドナルドの店舗数は3265店(6月末時点)。価格見直しの対象になるのは全体の4割で、これにより売り上げが1%増えるとみている。業績が悪化するなか、値上げを受け入れやすい地域で高くして収益の改善につなげるのが狙いだ。

 今回の再値上げにより、看板商品の「ビッグマック」の値段は、ライバルのモスフードサービスが運営するモスバーガーの主力商品「モスバーガー」の価格320円を大半の店で超えた。一部の店ではモスの高価格帯ハンバーガー「とびきりハンバーグサンド『プレーン』」の360円さえも上回った。

 値上げの背景には業績の悪化がある。マクドナルドは8月、13年12月期連結決算の業績予想を下方修正した。上半期の販売不振に加え、円安で原材料の調達コストが上がるためだ。連結売上高は2695億円から2650億円へ、営業利益は252億円から200億円へ、純利益は141億円から117億円へ引き下げた。当初は増収増益を予想していたが、前期比で売上高は10%減、営業利益は19%減、純利益は9%減となる。

 同社は12年12月期も減収減益だったが、2期連続の減収減益は原田泳幸氏が04年にマクドナルドのトップに就任して以来、初めてのことだ。

 大幅減益の理由は既存店の不振に尽きる。13年1~6月期の既存店売上高は前年同期比で6.3%減。原田氏は5月に5年ぶりとなる大幅な価格改定を実施。定番メニューのハンバーガーを100円から120円に値上げする一方、ドリンクなど100円メニューを拡充した。これで既存店の売り上げは持ち直すはずだった。

 しかし、この“夏の大型販促”は失敗した。7月の既存店売上高は前年同月比2.7%減と3カ月ぶりに減少。8月も同1.9%減と2カ月連続の前年割れに沈んだ。なかでも深刻なのが客数の落ち込みだ。値上げ後の客数は7月が9.5%減、8月が9.3%減と大幅な前年割れ。減少に歯止めがかからない。

 一方、客単価は値上げ効果で、7月が7.5%増、8月が8.1%増と持ち直した。だが、客数を上向かせるのは容易ではない。今回の「ビッグマック」再値上げで、客単価の引き上げと収益改善の一石二鳥を狙ったわけだ。

●郊外型大型店の出店を強化か

 マクドナルドの新社長に就任したカサノバ氏は、カナダや日本など6カ国のマクドナルドで勤務し、マーケティングを担当した。原田氏がトップに就いた04年に、マーケティング本部長として来日。09年までの在籍中に「えびフィレオ」や「メガマック」などヒット商品の販売戦略を立てた。

 しかし、状況は厳しい。何よりも集客力が落ちていることが大きい。その構造的要因は、少子高齢化が急速に進み、市場(=胃袋)が縮小していることだ。マクドナルドの主要顧客が老齢化して、ハンバーガーを食べなくなっているとの仮説を立てる外食業界のアナリストも多い。

 資本面で独立した企業なら、東南アジアなど成長が見込める地域に進出することができるが、マクドナルドは営業テリトリーが国内に限られる超ドメスティック企業だ。「日本市場がダウントレンド」(原田氏)を強めるなか、成長戦略を描くのは容易ではない。

 カサノバ氏は就任会見で「(メニューなどで)世界各国の成功事例を積極的に導入する」と説明した。アナリストは、これを店舗の大型化と読んだ。「収益性の低い都心部の小型店を閉鎖する一方、ドライブスルーの窓口を2つ備えた郊外型大型店の出店を強化する。店舗の大型化で厨房が広がればメニューの選択肢も増え、客単価の高い家族の需要を取り込むことかできる」という狙いだ。

 その場合、閉鎖を迫られるフランチャイズチェーンの経営者が猛反発することは必至だ。外国人でしがらみのないカサノバ氏なら店舗改革を断行できると期待する向きはあるが、事はそう簡単ではない。株式市場には「単に海外の成功事例を持ち込むだけで集客力を回復できるのか」と疑問視する声もある。

 カサノバ氏の経営手腕に対する最初の評価は、新価格導入後1カ月の既存店の業績に表れるとみられているため、10月の既存店売上高、客数、客単価がどういう数字になるかに注目が集まっている。
(文=編集部)