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「オリンピック」の宣伝・営利目的利用は、本当に違法なのか? 法的な許容範囲を整理

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「Thinkstock」より
 弁護士法人アヴァンセリーガルグループのパートナー弁護士で、企業法務から民事/刑事事件、インターネット関連法務など幅広い分野で豊富な経験を持つ山岸純氏が、話題のテーマや身近な紛争事案などについて、わかりやすく解説します。

 日本時間の9月8日、2020年夏季五輪の開催都市を決める国際オリンピック委員会(IOC)総会(ブエノスアイレス)で、開催都市に東京が選ばれました。

 五輪開催に向けた今後のインフラ整備もさることながら、未来の五輪選手の育成、ボランティア体制の整備、世界中からいらっしゃるお客さんへの「おもてなし」の準備など、日本が取り組まなければならないことがいっぱいです。

 ところで、このような五輪ブームに水を差すつもりはないのでしょうが、9月10日付朝日新聞デジタル版に、やや気になる記事が掲載されていました。

 要約するに、「日本オリンピック委員会(JOC)の発表によると、公式スポンサー以外が、『オリンピック』の文字や『五輪』のマーク、これらに関連する文字などを使用した商品を販売したり、五輪に関係するセールを開催したりすることは知的財産権の侵害とみなされることになる。これらの無断使用・不正使用は法的にも罰せられる」とのことです。

 つまり、

 「オリンピック」
 「東京五輪招致」

といったロゴが入ったTシャツや、お土産用のお菓子を販売したり、

「オリンピック記念セール実施中!」
「東京五輪おめでとう感謝セール」
「夏のスポーツの祭典をビールで応援しよう」
「祝!世界のビッグゲーム開催決定!半額キャンペーン」
「2020年記念!無料法律相談実施中!」

といったキャッチコピーを使用した営業活動も一切行ってはならない、ということです。これに加えて「法的にも罰せられる」とあっては、せっかくの盛り上がりムードがシラケてしまう気もします。

●差し止め、損害賠償の対象に

 そこで、真偽のほどを調査すべく、特許庁の商標登録原簿で調べると、確かに「OLYMPIC」の文字や「五輪のマーク」などは、コミテ・アンテルナショナル・オリンピック、すなわちIOCによって商標権として登録されていますし、カタカナの「オリンピック」もJOCによって登録されています。

 したがって、仮にIOCやJOC以外が、これらの文字やマークを使用した商品やサービスを提供すれば、商標法違反に問われる可能性があります。

 さらに、不正競争防止法は、

「需要者の間に広く認識されている他人の商品等表示と同一または類似の商品等表示を使用し、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為(法2条1号)」

を「不正競争」として、使用差し止めの対象としたり、損害賠償の対象としたりしています。

 すなわち、「世の中によく知れ渡っている他人・他団体の商品の名称やサービスの名称、ブランドの名称、看板のデザインなどを利用して、その他人・他団体の商売と同じであると思わせてしまうような行為」、例えば、

(1)コカ・コーラ社の「赤の下地に『コカ・コーラ』の白抜き文字が使用された看板」を真似して、「赤の下地に白抜き文字を使用した看板」を使用し、炭酸飲料を販売する行為

(2)日本テレビの24時間テレビのキャッチコピー「愛は地球を救う」を利用して、2月14日(バレンタイン・デー)に「愛は地球を救うキャンペーン」と題して、チョコレートを販売する行為

などは、不正競争防止法により、民事上、刑事上の責任が課せられる可能性もあります。

 また、同法は、あまりにも有名な商品名(例:CHANEL)やサービス名の場合、たとえジャンルの違う商品(例:ラーメン屋の店名に「CHANEL」と付ける場合)やサービスに使用した場合であっても、「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し」た場合(2条2号)として、「不正競争」に該当すると規定しています。

 したがって、仮にIOCやJOC以外が、「オリンピック」や「東京五輪」といった文字やマークを使用して営業活動を行った場合、「不正競争」と判断され、使用を差し止められたり、損害賠償責任を負わされたりする可能性があります。

●商標法上は問題がない?

 しかしながら、まず「商標法」に関していえば、なんでもかんでも「五輪」の文字などを使用してはいけないというわけではありません。商標法は、あくまで「登録時に指定した商品の種類やサービスの種類に限って、他人によるその文字などの使用を排除できる権利」として商標権を認めています。

 つまり、カタカナの「オリンピック」の場合、JOCが登録時に指定した商品は「防じんマスク、防毒マスク、溶接マスク」だけですので、Tシャツなどこれら以外の商品に「オリンピック」の文字を使用しても、商標法上は問題がないわけです(前述のとおり、他の法律との関係で問題があります)。

 また、法改正により、現在では「オリンピック」という単体の文字を、別の商品を指定して商標登録することはできなくなってしまいましたが(商標法4条1項6号。例えば、自動車を指定商品として「オリンピック」という商標権を登録すること)、文字を組み合わせて登録することは可能と考えられています。実際に、財団法人数学オリンピック財団が「数学の競技会の企画」などを指定サービスとして、「日本数学オリンピック」という商標を登録しています)。

 次に、「不正競争防止法」についてですが、この法律が適用されるのは、あくまで「世の中によく知れ渡っている他人・他団体の商品の名称やサービスの名称、ブランドの名称」そのものを、商品名やキャッチコピーなどに「表示」して営業活動を行った場合の話です。

 したがって、世の中によく知れ渡っている「オリンピック」や「OLYMPIC」といった文字やマークを使用することなく、「夏のスポーツの祭典」や「世界のビッグゲーム」「2020年記念!」といった、「オリンピックをイメージする文字」などを使用する限りにおいては、直ちに不正競争防止法が適用されることはない、と考えることもできます。

 なぜなら、現在の日本の法制度では、アメリカで知的財産権の一種として認められている「トレードドレス」という概念がないからです。これは、商品などのロゴマークや製品の形状、色彩構成、素材、大きさといった各種要素を含んだ「全体的・総合的なイメージ」や、レストランなどの店舗外観、看板、室内のレイアウト、装飾、従業員のユニホームなどによって構成される「全体的・総合的なイメージ」を保護しようという発想です。例えば、ダークブラウンのインテリアと暖かな照明器具で統一したスターバックスなどが想定されます。

 少なくとも、この概念が法制度として日本に導入されない限りは、「夏のスポーツの祭典をビールで応援しよう」「祝!世界のビッグゲーム開催決定!半額キャンペーン」といった「五輪をイメージする文字」の使用が、直ちに不正競争防止法違反と判断されることはないでしょう。

 もっとも、JOC側とすれば、「オリンピック」の文字やマークの使用を許可した公式スポンサーからの協賛金を選手育成資金として使用したり、五輪成功のためのさまざまな費用に充てているわけですから、これら「五輪のため」とは別のところで「フリーライド型の営業」が行われることについて顔を曇らせるのも、十分理解できます。

 2020年東京五輪開催までまだ7年間ありますので、法的な観点からだけでなく、クーベルタン男爵が提唱した五輪精神の観点、日本経済の発展の観点からなど、総合的に「五輪関連の営業ルール」をしっかりと議論し、世界中のお客さんを気持ちよく「おもてなし」できる体制を整えていく必要があります。
(文=山岸純/弁護士法人アヴァンセリーガルグループ・パートナー弁護士)

弁護士法人アヴァンセリーガルグループ
東京、大宮、大阪に拠点を持つ、法律のスペシャリスト弁護士法人。特に企業法務全般、交通事故・医療過誤等の一般民事事件、および離婚問題・相続問題等の家事事件に強みを持つ。また、無料法律相談も常時受け付けている。