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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第47回

不倫隠ぺいに不可解な行動を取る巨大新聞社長 社長の不倫現場で遭遇した場面とは…

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「Thinkstock」より
 【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。吉須と4ケ月ぶりに再会した夜、ふたりが見かけたのは、社長の松野が愛人との密会現場だった。そして、吉須からは例の手紙を預かった。中には、深井への手紙と同様の文面があった。

 開高美舞と飲んだ翌々日、深井宣光は吉須晃人とまた人形町界隈で会食した。4カ月ぶりに吉須と飲んだのはその週の月曜日で、わずか4日しか経っていなかった。

 翌週の月曜日に2人は、会長の太郎丸嘉一から夕食に招かれていることもあったが、前日の昼に吉須が電話してきて「面白い話がいくつかある」と誘ったからだ。深井も「美舞に聞いた話を吉須に話さねば」と思っていたので、誘いに乗った。

 吉須が指定したのは、リバーサイドホテルの喫茶室に午後5時半だった。深井は5時20分過ぎに着いた。まだ吉須の姿はなく、窓際の席に座った。

 喫茶室は正面玄関を入って左手にある。玄関を入ってすぐ右手、隅田川寄りがエレベーターホールだ。席からは、正面玄関とロビーを挟んで反対側のエレベーターホールがよく見えた。コーヒーを注文すると、正面玄関から入る人とエレベーターホールから出て来る人を追った。大都社長の松野弥介と、相手の花井香也子と思しき女性がまた現れはしないか、と淡い期待を抱いていた。

 10分ほどすると、ショルダーバッグをかけたジャンパー姿の吉須が正面玄関から入って来てきょろきょろしている。深井はその姿を見つけると、喫茶室の席から手を上げた。

 「待たせたかな」
 「ほんの10分ほどです」
 「じゃあ、すぐに行こう」

●2人を見張る影

 深井は会計を済ませると、吉須と一緒にホテルを出た。玄関から少し離れたところに濃紺のバンが止まっていたのに気付くこともなく、2人は水天宮通りに向かった。

 「どこを見ていたんだい?」
 「いえね。5日前みたいにまた遭遇しないかと思いましてね」
 「この時間じゃ、無理だろう。早すぎるぜ」
 「そうでした。ところで、どこに行くんですか?」

 「今日は鰻でいいだろ? 世界一周旅行で半年近く食っていないんだ」
 「いいですよ。でも、どこですか?」
 「すぐそこだ。5分もかからずに着く」

 水天宮通りを右に折れたところで、深井が切り出した。
 「実は、一昨日の水曜日、舞ちゃんと一杯やったんです」
 「へえ、舞ちゃんとね。何か面白い話あったかい?」
 「ありました。僕のほうはその話をしますよ」
 「そうか。でも、舞ちゃん、俺と君が会っているのは知っているのか?」

 「いや知りません。昨日も、吉須さんから電話があった時は昼食に出ていました」
 「彼女、せんさく好きだからな。この間の会長からの電話には興味があるんじゃないか」
 「あの時はありましたよ。でも、彼女には『ある大学教授が僕ら2人に話を聞きたい』ということになっていますから。もう忘れている感じですね」
 「おう、深井君、もう着いたぞ」

 水天宮通りから100メートルほどの信号で左の路地に入った。さらに100メートルほど進んだところで吉須が立ち止まった。

 「鰻屋なんてないじゃないですか」
 「鰻屋に行くとは言っていないぞ。鰻を食べるんだ」

 吉須は左に5メートルほどの私道を入った先の割烹「美松(みまつ)」を指差した。深井は覗き込むように目を凝らした。玄関灯に照らされた古びた木製の表札に、くすんだ墨の文字が読めた。

 「昔は料亭だったんだけど、今は老夫婦がふたりで昔馴染みだけを相手にやっている。料理は仕出しだから、鰻の出前を頼んでもらったんだ」

 吉須は私道に入ると、玄関のガラス戸を開けた。
 「こんばんは。吉須です」
 「いらっしゃい」

 上がり框(かまち)の手前で2人が待つと、老女将が出てきた。
 「お久しぶりです」
 「さあ、どうぞ。お上がりください」

 2人が靴を脱ぎ上り框に上がると、廊下を先に進んで案内した。
 「少し広いですけど、1階のお部屋でよろしいですね」
 「どこでも構いません」

 部屋に入ると、右手の床の間を背にした側に吉須があぐらをかき、深井が向き合った。
 「鰻は午後6時に頼んでいます。まだ15分ほどありますが、お茶でもお持ちしますか」
 「ビールを持ってきて。一杯やって待つさ」

 老女将が部屋から消えると、待っていましたとばかりに吉須が解説を始めた。
 「ここは昔、芳町芸者を上げる料亭だった。2流か3流のところで安かったから、大手証券の幹部が兜記者倶楽部の連中を接待するのに使っていた。若い頃に何度か来ている」
 「吉須さんは時々来ているんですか?」