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NHK連ドラ『ガラスの家』、現役財務官僚の間で“意外に”話題&好評のワケ「悩み共感」

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『ガラスの家』公式サイト(NHK HP)より
 現在放送中の連続テレビドラマ『ガラスの家』(NHK/毎週火曜夜10時放送)が、霞が関・虎ノ門界隈の居酒屋で、酒の肴になっている。話題にしているのは、主に20代の官僚だ。

 物語は、井川遥演じる薄幸の美女・黎(れい)が、財務官僚エリート一家・澁澤家に嫁ぐところから始まる。問題は、嫁した家には夫以外に2人の息子が同居していたということだ。20年以上続いた男所帯に突如現れた官能的な美女。彼女をめぐり、男たちの間で嫉妬や確執が生まれていく。

 10月15日(火)の臨時国会召集を控え、霞が関官僚たちは相も変わらず目まぐるしい日々を送っている。「社会保障制度改革プログラム法案」や「産業競争力強化法案」など、重要法案が目白押しな上に、先の参院選挙の違憲判決も出て、選挙制度改革や国会改革、さらには安倍晋三政権が執念を燃やす「集団的自衛権の見直し」など国会が大荒れに荒れることは目に見えている。関連官庁の担当課は審議中、連日のように徹夜が続く。事態を見越して、すでに各省は国会議員や他省との調整にも入っている。

 中でも、財務省主計局には悲壮感が漂っている。8月末の来年度概算要求が青天井となってしまったため、予算編成が相当厳しいものになることは疑いようもないからだ。同省としては消費増税もようやく実現にこぎ着けたが、約5兆円の経済対策を盛り込んだ補正予算という煮え湯を飲まされることになった。20代のキャリア官僚の肩書は係員や係長だが、今後はこれまで以上に現場で最も身を粉にして働かなくてはならない。

 さて、多忙極まりない彼らの間で、なぜこのドラマが話題に上るのか?

 それは、ヒロインの結婚相手の肩書が実在の財務省主計局長で、息子が二世の財務官僚(係員)だからだ。ちなみに、次男は法科大学院を卒業して司法浪人中だ。ヒロインと夫、その長男を軸に進む背徳感満載のラブストーリーだが、とうとう10月1日放映の第5回では、義母である黎と長男が心に秘めた思いを隠しきれず、エレベーターの中でキスしてしまい、翌週8日放送回の冒頭シーンで2人が一夜を共にしてしまったことが視聴者に明かされる。

 朝帰りした黎は「あなたを裏切りました。心も身体も」と相手が義理の息子だということは明かさずに、家を出る。後日、離婚届が澁澤家に送られてくるのだが、夫は妻への思いを捨てきれずに興信所を使って妻の居場所を探し出し、土下座して「戻ってきてくれ」と男泣きに泣くのである。そこに抜群のタイミングで、やはりヒロインを探していた息子が訪ねてくる。そして主計局長は、妻の浮気相手が自分の息子であることを悟るのである。

●財務省内の雰囲気を反映?

 毎週録画して見ているという20代の財務官僚に感想を聞くと、以下のように答えてくれた。

「主計局長の肩書ですから、当然、香川俊介現主計局長を連想してしまい、おかしくてラブシーンが直視できないこともあるのですが、非日常感たっぷりで、逆にいい」

 また、「放映しているのは知っているけど、興味ない」という別の20代財務官僚も、感想を尋ねると以下のようにそれなりのコメントを返してくるのが、いかにも官僚らしい。

「『半沢直樹』(TBS系)と同じで、細かい部分設定は突っ込みどころ満載ですが、大枠の雰囲気は近いし、理想と現実の狭間で悩む長男に入省直後の自分たちを重ねて見ているんじゃないかな」

「全体的な雰囲気は、財務省より外務省のほうが近い気がします。二世、三世も山のようにいます。財務省では親が現役の時は、絶対にその子どもは採用しない。それほど人事が歪むことに気をつけていますから」

 ほかにも、別の官僚からは「ドラマではトップエリートの家庭らしく、セレブ感たっぷりの暮らしぶりだが、それが逆に、給与や公務員宿舎削減などの憂き目しか見ない若手の心を惹くのかもしれない」という感想も聞いた。

 地方出身で中流家庭に育った秀才には、ほとんど異次元の世界である。しかし、テレビドラマの一番の価値は日常を忘れさせてくれる部分にこそあると、筆者は思う。そういう意味では、少なくとも若手官僚たちへ向けては成功しているといえるのではないか。

 全9回放送のドラマもいよいよ佳境。次回放送は奇しくも、臨時国会召集日だ。井川遥の妖艶さにノックアウトされて、よもや国会対応が疎かになったら……。そんな心配がトップエリートの彼らに不要なことはいうまでもない。

 改めて感じるのは、NHKドラマの変容ぶりだ。『ガラスの家』の脚本を担当する大石静氏の同局での前作は、「セカバー」の俗語まで生んだ『セカンドバージン』。この時もヒロインの恋人は17歳年下の元金融庁キャリアだった。登場人物に同性愛者が出てきたのには度肝を抜かれたが、テレビを持たない世代の若者にテレビを視聴させるには、「公共放送」といえどもなりふり構ってはいられないのだろう。むしろ、「公共放送」だからこそ、冒険してでも話題作を提供しなくてはという、妙な使命感すら生まれているのかもしれない。
(文=横田由美子/ジャーナリスト)