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ビジネスと契約書の、ちょうどいい関係(2)

契約書はトラブル予防・リスク回避に有効~自筆署名、実印じゃなきゃダメ?契印とは?

契約書はトラブル予防・リスク回避に有効~自筆署名、実印じゃなきゃダメ?契印とは?の画像1「Thinkstock」より
 とっつきにくい「契約書」に関する問題を、1月に上梓した『契約書の読み方・作り方』(日本能率協会マネジメントセンター)も「わかりやすい」と評判の行政書士・竹永大氏が、専門家としてやさしく解説します。

今回は、誰でもすぐに活用できる具体的な契約書作成のスキルをご紹介します。

●正しい契約書のスタイルとは?

 契約書には、正式に決まった形式のようなものがあるのでしょうか? 実は、形式に関してのルールはあまり多くはありません。契約をどのような形式で締結するかは自由であるというのが、民法の原則的な考え方だからです。もちろん、ハンコの押し方が間違っていたりするのは格好悪いものだし、いくつかの重要なポイントを外してしまうと、契約そのものの信憑性を欠く恐れもあります。

 ビジネス契約書の多くは、まず「タイトル」が付けられており、次に「条文」という形で契約内容が書かれ、そして最後に締結の「日付」と当事者の「署名」があるというスタイルです。体裁としてはそのくらいを守っていればよく、タイトルを「契約書」あるいは「覚書」とするかなどは、契約の成立や内容に直接影響しないので、あまりこだわる必要はありません。

 気をつけてほしいのは、署名欄です。契約書の末尾に署名をしますが、これは「私は確かに上記の約束をした」という意思表示を意味し、契約の成立を示すために欠かせない部分なのです。

 欧米諸国のサイン文化とは違って、我が国には押印の習慣が古くからあります。少なくとも江戸時代にはすでにハンコが広まっていたようですし、明治時代には「諸証書ノ姓名ハ自書シ実印ヲ押サシム」(明治10年7月7日 太政官布告)と、文書への署名と実印について法令化もされています。つまり、実務的には、契約書の末尾には「署名」に加えて「実印」を押すのが最も望ましいということがいえます。

 「署名」とはもちろん、自らの手でペンをとってサインを書き込むことですが、筆跡により本人性を強く証明できるので、契約書にはこちらが向いています。署名に対して、あらかじめ名前を印刷したものや名前のスタンプを押したものは「記名」といわれ、「署名」とは明確に区別されています。つまり「記名」ならば本人でなくてもできてしまうので、「署名」ほどの証明力はないのです。公的な文書などで「署名または記名押印」を求めるものが多いところからも、署名は押印と同様に強い証明力があることがうかがえます。

 また「実印」ですが、これは市区町村や法務局に印鑑登録してあるハンコをいいます。いかに立派な書体や、豪華な印材が使われていようと、登録されていなければただのハンコ(認め印)なのです。法人間の契約書によく角印(会社名を四角くあしらったハンコ。社判)が押されていることがありますが、登録していなければ「実印」とはいわないので注意してください(一般的には、社判とは別の円いハンコを実印として登録します)。角印で署名欄を飾ることは構わないのですが、必ず実印(会社の場合は「会社実印」)も押印します。

 ところでハンコは、署名欄以外にも押されることがあります。特に覚えていただきたいのは「契印(けいいん)」で、契約書が2枚以上にわたる場合に、ページの合わせ目(または製本テープと用紙との合わせ目)にまたがって押すことです(割り印と呼ぶ人もいますが、厳密には両者は別物です)。契約書が(差し替えられたりして)改ざんをされていないことを示す、いわゆる封印の意味があります。契印は必ず署名欄に使用したのと同じハンコを用い、当事者全員のハンコを押さなければならない点に注意しましょう。

●適度な懐疑心と、全体像を見失わない交渉力

 契約書は予防法務とか、リスク回避策といった見方がされます。実際に、約束があったことの証拠になり、約束自体を守らせる力、拘束力が高まる効果があるといえます。また、その内容によって、トラブルに発展するのを防ぐテクニックもあります。

 例えば、あなた(の会社)が他社から商品や原材料を購入するとしましょう。つまり売買取引ですが、この取引のリスクとして「商品や原材料が期日に届かない(納入遅延)」「品質が要求どおりでない(不完全履行)」などが挙げられます。こうした事態に備え、契約上あらかじめ対応策を決めておいたり、万一の場合の「損害賠償」について定めておくことがあるわけです。

 ところで損害賠償といえば、もし契約書に「損害賠償は一切しない」とか「損害が生じても限られた範囲しか賠償しない」といったことが書かれていたら、どうなるのでしょうか。少し、具体的な条文を見てみましょう。

 「本契約に関連して、甲が、乙に対して損害賠償の責を負う場合には、請求原因の如何にかかわらず、その総額は金100万円を上限とする」

 この例文は、実際の契約書で頻繁に見かける条文を基にしており、特にどこか間違っているということではありませんが、あなたが乙の立場だと仮定し、相手方(甲)に提示されたものと考えて、注意して読んでみてください。

 この条文からわかることは、「損害賠償の責を負う場合には」とあることから、(1)もしもの際の相手方の賠償責任に関する条文であること、「請求原因の如何にかかわらず」とあるので、納入の遅れや不完全な履行、瑕疵担保責任、背信行為、あるいはなんらかの違反やトラブルによる不法行為責任など、さまざまな原因が考えられるけれども、それら一切を含めて、(2)この取引において賠償が問題になった場合に適用される条文なのだということ、そして(3)賠償額は「100万円」が上限になる、ということですね。

 要するに「なにがあってもトータルで100万円以上は賠償しませんよ」と相手方が言っている、と読み取れるのです。

 相手方は、なぜこのような規定を入れたのでしょうか。もちろん、それは損害賠償に上限を設定するためです。売主としては、このような条件を付けておいたほうが賠償リスクの想定をしやすく、メリットがあります。逆に、商品やサービスを購入する側にとっては、取引の性質や商品特性などから、この上限金額が十分かどうか、よく検討する必要があるといえます。賠償が必要になる場合とは、納期の遅れだけが原因になるとは限らないし、上限金額が設定されているために、損害が十分にカバーされない恐れがあるからです。

BusinessJournal編集部

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