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『アップル帝国の正体』著者・森川潤氏、後藤直義氏インタビュー

アップルの植民地化する日本メーカー、支配されるキャリア…アップル依存の代償と実態

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–本書では、「日本の携帯電話キャリアは、アップルに手足をもぎ取られている」と表現されていますが、どういう意味ですか?

森川 携帯電話の誕生以来、キャリア側が端末の仕様や機能面での要望を端末メーカーに出し、メーカーはキャリアに要求される通りのコストと仕様で端末を開発してきました。そうすることで、キャリアは端末メーカーとの関係性においていつも優位に立つことができ、キャリアは端末販売と通信料金の2通りで利益を生み出すことができたわけです。

 しかし、キャリアがiPhone 5を販売するということは、このキャリアの“食い扶持”をことごとくアップルに譲り渡してしまうことを意味します。つまり、アップルはキャリアが活動するための手足を奪い取るかのように、携帯電話ビジネスの隅々にまで利益を得るための網を張り巡らせているわけです。

 ジョブズは「アップル自身が通信キャリアになろう」と考え、既存キャリアに取って代わるにはどうしたらいいのかを徹底的に調べ上げたといわれています。キャリアがどこで、どのように稼いでいるのか、そのビジネスモデルを徹底的に調べ上げたことで、キャリアを支配するという構造を築くことに成功したわけです。そして、キャリアが頂点にいたピラミッドを、アップル頂点のピラミッドにつくり替えたわけです。通信業界の人は“土管化”と言いますけれども、キャリアは何もすることがなくなってしまったわけです。つまり、アップルのスタイルは「つくるのもお金を稼ぐのも自分たちがやる。キャリアは黙ってiPhoneを売っていればいい」というものです。

–アップルはキャリアに対して、かなり厳しいiPhone販売ノルマを課しているともいわれています。

森川 最初はノルマを課してはいなかったと聴いてますが、auが参入した時からノルマを課すようになったといわれています。ただ、いろいろな関係者の話を総合すると、「これだけ売れ」というノルマではなく、「これだけ買え」という内容ではないかと思います。

 あるキャリア幹部は「iPhoneは、販売価格だけで見ると赤字だ」と打ち明けてくれました。例えば「実質0円」で購入できる仕組みがありますが、これは2年契約で本体価格を24回分割で割賦販売にし、月々の支払い分を月額の通信料金の割引で相殺していく仕組みですが、無料となった月々の端末代金は、キャリアがユーザーに代わり、アップルに支払っているわけです。この場合、アップルに支払う額がキャリアの販売価格よりも高ければ、端末販売だけでは収支は赤字です。だから、2年間になるべく多くの通信をさせ、その通信料でキャリアは稼がなければならない。赤字で売るということは、これまでのキャリアとメーカーの関係では起こり得なかったことですね。

–キャリアにとっては、そこまでしてもiPhoneを扱うメリットはあるのですか?

森川 それはソフトバンクを見れば明らかで、iPhoneを販売することはキャリアの注目度を一気に引き上げ、計り知れない恩恵を与えていますね。当時ソフトバンクは、契約者数が増えれば増えるほどいろいろなサービスを打てると考え、世界中で一番厳しい条件をのむこともできた。08年7月、日本で初めてiPhoneを販売した当時のソフトバンクは、国内携帯電話契約数のシェアで16%にすぎませんでしたが、今や22%強となっています。その一方で、ドコモはiPhone登場以前には50%を超えていたシェアが、13年に入ると一気に43%まで落ち込んでいます。

●高まる“普通の会社化”への懸念

–今年に入り、アップルは1〜3月のiPhone 5生産予定台数を大幅に下方修正し、一時的に株価が下落する“iPhoneショック”が話題になりました。スマートフォン販売の世界シェアでは韓国サムスンの後塵を拝し、アップルの快進撃は踊り場を迎え、今後徐々に勢いは低下していくとの見方もありますね。

後藤 儲けようと思うことと、いいものをつくりたいと思うことは、まったく別です。いいものをつくりたいと思ってきたジョブズは、アップルのシンボルになってきましたが、発売を延期させたり、異常なくらい高い部品を使ったり、そういうことは儲かるということとは時に相反することです。しかし、どういう会社でも必ず、会社がだんだんと大きくなっていくとともに、「儲けるために何をするのか?」ということが会社の目的になってきます。アップルでも、ジョブズの「質にこだわった経営戦略」から、現CEOのティム・クックの市場シェアや価格など「量を重視した戦略」に、少しずつですが軸足を移しています。

 それが明らかになったのが、最近発売されたiPhone 5cです。これは、バジェットバージョンと呼ばれる廉価版iPhoneです。これによって、プレミアム商品しか売っていなかったアップルが、劇的にスマホ販売が伸びている中国やインド、インドネシア、そういう市場を取りに行くことを宣言したわけです。でもこれは、かつてジョブズの下で徹底したプレミアム商品だけに絞り込んで勝ち続けたスタイルではありません。

 アップルのこれまでの歴史を振り返ると、2000年にiPodを出して以降、03年にiTunes、2007年にiPhone、そして10年にはiPadと、2~3年おきに新しいカテゴリーを創造してきました。ですから、そろそろアップルが次の新しいカテゴリーを発表するのではないか、多くの人が大きな期待を抱きながら待っているわけです。そして、そのカテゴリーについて、腕時計やテレビなどと憶測が飛んでいます。実際、来年iTVを発表するのではないかといわれており、その試作機がすでに完成しているという情報もあります。

 ただ、新しく発表するカテゴリーがもし失敗したら、アップルにはカテゴリーを創造する能力はもうないということを自ら証明してしまうことになる。むしろ何も出さなければ、「見たこともないようなすごいものを、近いうちに出すのではないか?」と、人々の期待がますます高まるだけで済むわけですが、その“じらし”がそろそろ限界に来ているのも事実なのです。つまり、アップルが革新的企業であり続けるのか、はたまた普通の会社になってしまうのか、世界中がかたずをのんで見守っている状況といえます。その意味で、iWatchかiTVが発売されると噂される来年は、アップルにとって試金石となると思います。

–ありがとうございました。
(構成=編集部)

BusinessJournal編集部

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