NEW

ユニクロ柳井社長退任撤回の理由と、加速する後継者競争〜「5兆円企業」への壁とは?

【この記事のキーワード】

, ,

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ユニクロ大阪心斎橋店(「Wikipedia」より/Tokumeigakarinoaoshima)
「残念ながら社長を継続しなければならない。今はグローバル化を進めている真っ最中で、社長を退くことは不可能だ」

 カジュアル衣料店・ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、10月10日に開いた2013年8月期の決算発表の席上で続投を表明した。以前から、65歳になる来年2月までに社長を退き会長に専念すると公言してきたが、これを撤回したのである。だが、退任宣言を本気で受け取っていた業界関係者はほとんどいなかったため、今回の社長撤回に業界内で驚きはない。

 柳井氏が社長退任撤回の理由に挙げた点は、グローバル展開が自分の描いていたスピードに達していないこと。20年の売上高5兆円という目標に向けて海外展開を加速させるため、引き続き陣頭指揮を執るという。

 13年8月期連結決算の売上高は前期比23%増の1兆1430億円、営業利益は同5%増の1329億円、最終利益は同26%増の903億円。いずれも過去最高を記録した。売り上げ1兆円超は日本の衣料品企業として初めてだ。ZARAを運営するインディテックス(スペイン)、H&M(スウェーデン)、ギャップ(米国)に次いで世界第4位。Lブランズ(米国)を抜いて、前年度から1つ順位を上げた。

 だが、柳井氏は不満だ。グローバル展開で欧米の衣料大手に後れを取っているためだ。ファストリの海外売上高比率は3割だが、ZARAのインディテックスは売り上げの8割を自国以外で稼いでいる。柳井社長は決算会見で「できれば2年後、遅くとも3年後までに国内と海外の店舗数を逆転させたい(13年8月末現在、国内店834、海外店446)」と、海外展開を一段と強化する方針を打ち出した。

 ファストリ海外店の約半数は中国にある。9月30日、グループで世界最大の旗艦店となるユニクロ上海店が開店した。開店前から2000人が詰め掛け、10時の開店予定を前倒してオープンした。ユニクロブランドは日本や中国では浸透しているが、欧米での知名度は低い。米インターブランド社の世界ブランド番付(2013年)にH&M、ZARA、ラルフローレン、ギャップのライバル各社はランクインしている一方、ユニクロはトップ100に入っていない。

 国内のユニクロ事業もさえない。機能性肌着「ヒートテック」が大ヒットした10年8月期以降、目立ったヒット商品に恵まれなかった。13年8月期の国内ユニクロ事業は前期比5%の減益で、3期連続の営業減益となった。

 柳井氏は20年に売上高5兆円の大目標を掲げるが、「現時点で社長退任の時期を明らかにしたら株主が不安になる。売り上げを現在の5倍に押し上げる力仕事は、柳井氏にしかできない」(業界関係者)という見方も多い。

●加速する“ポスト柳井”めぐる競争

 柳井氏は積極的に社外から人材を集めた。例えば02年、日本IBM出身の玉塚元一氏(98年入社、現ローソンCOO)に社長の椅子を譲ったが、わずか3年で玉塚氏を更迭。自ら社長に返り咲いた。玉塚氏の前にも、伊藤忠商事から転じた沢田貴司(97年入社、現リヴァンプ社長)を後継に指名したが、「結局は柳井さんの会社。自分で腕を振るえない」と判断して沢田氏は柳井氏のもとを去った。90年代後半に入社した若手幹部の中で、現在までユニクロに残っている人は少数だ。

 現在、ファストリのナンバー2の地位を4人が競い合っているといわれる。日本とアジアの2大市場を統括する大笘直樹氏は81年税務大学校卒。福岡国税局から福武書店(現ベネッセホールディングス)を経て01年に入社。柳井氏の方針を忠実に実践し、側近中の側近といわれている。

 欧州・米国担当の堂前宣夫氏は、93年東京大学大学院・電子工学修士課程修了。米コンサルタント会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーを経て98年に入社。沢田氏、玉塚氏と共にフリースブームをつくり出した。堂前氏は柳井氏に真正面から議論を挑むほど鼻っ柱は強い。柳井氏と衝突したことは1度や2度ではない。07年には柳井氏と衝突してユニクロを去ったが、3カ月後に戻った。

 MD(商品政策)を一手に担う中嶋修一氏は、87年関西学院大卒でダイエーを経て94年に入社。急成長している「ジーユー」ブランドを率いる柚木治氏は88年一橋大学卒で伊藤忠商事、米GEキャピタル・コーポレーションを経て99年に入社した。

 子会社リンク・セオリーの会長をやっている柳井氏の長男・一海氏が、昨年ファストリのグループ執行役員に就いている。柳井氏はずっと「世襲はしない」と公言してきた。「普通の会社なら息子でも社長は務まるが、成長軌道に乗せる力仕事は(自分の息子たちは)無理」という理由で、大株主として経営陣を監督する取締役にするとしてきた。

 業界関係者は、ポスト柳井をめぐる人事について、次のように見る。

「日本と中国を統括する大笘氏と、欧州・米国担当の堂前氏がポスト柳井の最有力候補。大笘氏は優等生すぎて力仕事に向いていない。堂前氏は、一度柳井氏のもとを去った過去を持つ。柳井氏が後継者に求めるのは会社への忠誠心ではなく、仕事への忠誠心だ。堂前氏がトップになるには、欧州と米国でユニクロの売り上げを爆発的に伸ばすことが絶対条件でしょう」

「売上高5兆円」達成のために、海外の有力企業からトップをスカウトする可能性もある。今後のファストリ成長のカギを握る後継者人事に、業界内の注目が集まっている。
(文=編集部)