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ソニー、分割案めぐり本格化する米投資会社との攻防〜米社の狙いと手法とは?

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ソニー本社(「Wikipedia」より/Shuichi Aizawa)
 米有力ヘッジファンドのサード・ポイントは、他社名義で保有するソニー株式の一部を自社名義に変更した。ダニエル・ローブ氏が率いるサード・ポイントは今年5月、ソニーのエンタテインメント部門を本体から分離して米国で上場することを提案。ソニーは8月、「映画・音楽事業を分離しないほうがソニーにとって有益」との結論に達し、サード・ポイントの提案を拒否した。ソニーの平井一夫社長兼最高経営責任者(CEO)は、「筋の通った指摘を書簡にして送ってくれる。ケンカ腰になれるはずがない」と述べ、「良好な関係」を強調した。

 サード・ポイントはソニー株を7%保有していると公表していたが、実際には自社名義ではなかった。ソニーの株主としての権利を行使できるように、この一部を自社名義に変更した。会社法によると、1%以上の株式を6カ月以上保有していると株主提案ができ、3%以上の株式を6カ月以上保有していると、臨時株主総会の招集や取締役の解任を請求できる。サード・ポイントは保有している株式のうち最大で3%分の名義を変更したとみられている。

 サード・ポイントが提案したソニーのエンタメ部門の分離上場案は、今年の株主総会の正式の議題にはならなかった。株主提案すれば、株主総会の正式の議題となる。サード・ポイントが本当にソニー株の3%分を保有しているならば、取締役の解任を請求できる権利も手にしていることになり、2014年の株主総会に向けた戦闘態勢を整えたことになる。

 平井社長は10月11日、全国紙のインタビューに応じ、「(映画・音楽などのエンタメ事業)は非常に重要で不可欠なビジネスで、今後も100%保有する」と強調。あらためてサード・ポイントの提案には応じないことを強調した。

●問われるエンタメ部門の収益性

 平井氏は社長に就任以来、業績不振の薄型テレビなどエレクトロニクス事業の立て直しに注力してきたが、エンタメ部門についてはあまり経営に干渉してこなかった。サード・ポイントの提案を拒否した際に、「エンタメ事業の収益に関する情報を詳しく開示する」方針を示した。

 ソニーの13年4~6月期(第1四半期)連結決算の売上高は、前年同期比13%増の1兆7127億円、純利益は34億円の黒字(前年同期は246億円の赤字)に転換した。音楽分野(主にソニー・ミュージックエンタテインメントの業績)は売上高が同13%増の1120億円、営業利益は48%増の108億円。円安の好影響と持分法投資損益の改善が増益の理由だ。映画分野(ソニー・ピクチャーズの業績)は売上高が3%増の1589億円、営業利益は37億円の黒字(前年同期は49億円の赤字)となった。音楽出版カタログ事業を売却して103億円の利益を計上したことによる黒字化だ。これがなければ営業赤字が続いたとみられており、映画の業績は厳しい。

 サード・ポイントはソニーのエンタメ事業の経営改革への取り組みを注視している。11月下旬にエンタメ部門のトップが米国と日本で事業戦略を説明する予定だ。ソニーの映画部門は9月に、チーフ・コミュニケーションズ・オフィサー職に危機管理や広報で実績のある人物を起用。この人物が、サード・ポイントとの対話の窓口になるという。

 もし、ソニーの経営改革が不十分と判断すれば、来年の株主総会の委任状争奪戦(プロキシーファイト)を視野に入れつつ、再び株式提案できる体制を整えたわけだ。11月に一つのヤマ場を迎える。

●サード・ポイントの手法

 サード・ポイントは、どういう手法でソニーを攻めるのか? サード・ポイントが他社への投資案件でとった手法を見てみよう。

 同社は英競売大手、サザビーズの株式保有比率を5.7%(8月15日時点)から9.3%に引き上げ、ルプレヒト会長兼最高経営責任者(CEO)に退任を要求したと、ロイター通信が10月3日に報じた。株式市場はローブ氏のサザビーズへの“攻撃”を好感して、同社株は騰勢を強めている。今回の保有比率の引き上げで、サード・ポイントはサザビーズの筆頭株主に浮上。ローブ氏はサザビーズの取締役会に椅子を得たら、ルプレヒト氏を退任させ、会長とCEOを分離する意向だという。

 ロイター通信によると、サード・ポイントは監督当局に提出した書簡で「ここ数年間の現代モダンアートの売り上げをみてわかる通り、サザビーズの営業利益率は慢性的に低く、クリスティーズに比べて競争力が低下していることで、われわれ(株主)は不利益を被っている」と主張。「サザビーズの不振は、最高レベルの経営者にリーダーシップと戦略的ビジョンがないことが原因との結論に達した」としている。

「物言う株主」の代表といわれるローブ氏は、米インターネットサービス大手・ヤフーの次のターゲットを、英競売大手・サザビーズに絞ったことになる。サード・ポイントは2011年からヤフー株式を取得。昨年5月、ヤフーのスコット・トンプソンCEOの学歴詐称問題を追及し、辞任に追い込んだ。その後、サード・ポイントからローブ氏ら3人がヤフーの取締役に就任した。

 ヤフーは今年7月、サード・ポイントからヤフー株式4000万株を買い戻した。買い取り価格は1株29.11ドル、合計金額は11億6400万ドル(約1200億円、当時の為替相場の1ドル103円で換算)。「サード・ポイントは6億ドル(約620億円)以上の利益を上げた」と米メディアは報道している。ヤフーに持ち株を買い取らせることに成功すると、ローブ氏ら3人はヤフーの取締役を退任した。そしてヤフーで莫大なリターンを得たサード・ポイントが次なる獲物としたのが、サザビーズとソニーだ。

 標的になったこれらの企業に共通しているのは、そのブランド力の高さだ。サード・ポイントが買っているということだけで株価が上昇する「セレブリティー相場」がNY市場で続いている。ソニーは、安閑とはしていられない。
(文=編集部)