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ビジネスと契約書の、ちょうどいい関係(3)

契約トラブルの元凶・解約、できるorできないように定めるのはどちらが有利か?

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契約トラブルの元凶・解約、できるorできないように定めるのはどちらが有利か?の画像1「Thinkstock」より
 とっつきにくい「契約書」に関する問題を、1月に上梓した『契約書の読み方・作り方』(日本能率協会マネジメントセンター)も「わかりやすい」と評判の行政書士・竹永大氏が、専門家としてやさしく解説します。

 取引において、時には相手方の事情が変わるなどして、継続が難しくなったり、契約が不本意に打ち切られてしまうこともあります。あるタレントと舞台監督との間で、舞台製作をめぐり「原作者の許可を求めていたのに得ていなかった」、とか「タレントが稽古に出てこないので、舞台が中止に追い込まれた」といった水掛け論が起き、訴訟に発展したという事件も記憶に新しいのですが、そもそも契約を途中でやめてしまうことはできるのでしょうか?

 法的には、いったん締結した契約は、勝手には解除できないのが原則です。法律を持ち出すまでもなく、タレントが舞台に出演するとか、建築業者が工事を受注するとかいった継続的な取引であれば、目的を達成するまで契約がきちんと継続することが望ましいのは当然です。

 では、念のためということで、契約書に「期間中は解約できないものとする」のような条文を書いておけば、自社にとって有利な契約書になるでしょうか? これは、イエスでもありノーでもあるといえそうです。

 解約できないことが有利になる例として、自社がなんらかのコンサルティングを提供する場面を想定してみましょう。せっかく練り上げたプランやノウハウの提供が、クライアントから気まぐれに打ち切られたのでは、不都合でしょう。いつ途切れるとも知れない不安定な関係だと、長期的な視野で成果を出すことは難しいからです。

 そこで「解約できない」あるいは「期間中に自己都合で解約する場合は、最低3カ月前の通知を要する」等として、突然の解約を回避してみるとか、あるいは「解約には3カ月分のコンサルティング料金に相当する金額を違約金として支払う」等といった特約をすることで、金銭的にカバーするのもひとつの有効なアイデアです。たとえこうした特約に同意してもらえなかったとしても「自己都合の解約については甲乙別途協議するものとする」のように、話し合いというワンクッションを入れられるような条項を添えるべきでしょう。

●すぐに解約できるようにしたい場合

 一方で、契約をすぐに解除できたほうが、かえってリスクが低くなる場面もあり得ます。例えば、自社がメーカーとして原材料を定期的に販売しているような取引において、相手方の代金支払いが遅れたり、未回収になってしまいそうな時です。

 そのような場合は、メーカーとしても材料の発送を止めるか、すでに送ったものを引き揚げるかしなければ、代金未回収のリスクが増え続けてしまいます。じゃあそうすればいいと思われるかもしれませんが、とはいえ、原材料を発送すること自体は、契約期間中はその契約上の義務であるわけで、供給を勝手に止めるわけにはいきません。よって、このような時は必要に応じて契約の解除を急ぎたい、となるわけです。

 もちろん、相手に明らかな契約違反があれば、法律に従って解除することはできます。ただ現実には何をもって「明らか」な「違反」とするかは、解釈の微妙な問題でもあるし、しかも民法上の解除には原則として「催告」が必要とされているのです。「催告」とは簡単にいえば、相手に対して「○月○日までに、約束したこと(支払いや納品など)を実行せよ」という通知をすることです。民法に頼ることは、少々迂遠な解決策であるといえます。

 では、予想される解除の理由も決め、契約書に解除の手続きも定めておいてはどうでしょうか? 例えば、相手方の契約違反や、経済的不信用(業態によってさまざまな理由がありますが、つまりは不安要素)が生じた場合には、契約を解除することができ、場合によっては「催告」を省略することもできる、と規定するのです。

 具体的には、

「当社は、貴社が次の各号の一に該当する時は、契約不履行とみなし、本契約の全部または一部を、貴社に対しなんらの催告なく解除することができる。
(1)本契約の一部または全部に違反した時
(2)手形または小切手等の不渡りのあった時

といった条文を盛り込むのです。

●実は身近な契約書の世界

 このように、契約書は複雑に見えて、実はシンプルな原則と、比較的自由な条件を含んでいるものですので、自ら積極的に準備して活用したいものです。最近は参考となる契約書の雛型がインターネットや書店にも出回っていますし、業種によっては、その業界団体が標準書式を配布していることもあるので、これらを活用して作成すれば、比較的簡単に専門的な契約書を作成できます。雛型をダウンロードするなどして、契約類型を確認したら、自社の取引に合わせて上書き記入していけばよいのです。

 もちろん雛型はあくまでも「例」として書かれているので鵜呑みにせず、最適な契約書に改良する必要はあります。必要以上に細かいとか、あきらかに不要な条文などは削除したほうが、かえって安全ということもあります。反対に、過去の取引の経験などから、揉めるポイントがわかっていれば、書き加えていくべきでしょう。

 契約書の作成は地道な作業ではありますが、多くの雛型に触れることで幅広い法律知識やビジネスモデルが理解できますし、将来のビジネスリスクを想定しながら起案し、完成させるのは、やりがいのある仕事です。是非、多くの契約書に触れて自分なりの読み方や、戦略を考えてみてください。
(文=竹永大/行政書士)

●プロフィール
1973年東京生まれ。行政書士。経済産業省後援ドリームゲートアドバイザー。契約書の基本セミナー講師。平成15年、竹永行政書士事務所を設立。契約書専門の行政書士として、下町の工務店から、大手企業まで幅広いクライアントを持ち、あらゆる業界の契約実務をアドバイスし続ける。ホームページで、失敗しない契約書のテクニックや書式を無料公開中。著書に『わかる!使える!契約書の基本』(PHPビジネス新書)、『契約書の読み方・作り方』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

BusinessJournal編集部

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