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北朝鮮、“粛清”の実態~張成沢処刑に透ける、独裁体制維持のための異分子排除

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『金正恩を誰が操っているのか』(五味洋治/徳間書店)
 「粛正」とは、「綱紀粛正」と使われるように、厳しく取り締まって不正を除き去ることを意味する。一方、「粛清」は、厳しく取り締まって、不純・不正なものを除き、整え清めることで、特に独裁政党などで一体性を保つために反対派を追放することを意味する。「粛清」には、本来処刑の意は含まれていない。

 12月12日、北朝鮮の治安機関である国家安全保衛部は金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の叔父であり、国防委員会副委員長で朝鮮人民軍大将だった張成沢(チャン・ソンテク)氏に対する特別軍事裁判を行い、「国家転覆の陰謀行為」を理由に死刑判決を下した。刑は即時に執行され、一部報道では、「火炎放射器による死刑執行」だったという。

 では、火炎放射器で火炙りの刑に処されなければならなかったほどの張氏の罪とは、一体何だったのだろうか? 9日の朝鮮通信から紐解いてみよう。

 9日付朝鮮通信には、8日に行われた朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議の様子が克明に報道されている。同会議には、党中央委員会政治局委員および政治局委員候補が参加した。

 会議では、「最近、党内に潜んでいた偶然分子(思想、階級の見地から不適切であるが偶然に潜り込んだ者)、異色分子がチェチェ革命偉業継承の重大な歴史的時期に、党の唯一の指導を骨抜きにしようと分派策動で自分の勢力を拡張し、あえて党に挑戦する危険極まりない反党・反革命的分派事件が発生した」と張氏の行為を批判した。

 さらに、張氏の反党・反革命的分派の具体的な行為について、(1)朝鮮人民軍最高司令部命令を不服とする反革命的な行為、(2)国の経済活動と人民生活の向上に莫大な支障を来した、(3)チェチェ鉄、チェチェ肥料、チェチェ・ビナロンの工業発展を阻害した--ことを挙げている。

 そして、注目されるのは張氏の私生活について、「張成沢は、資本主義生活様式に染まって不正・腐敗行為を働き、浮華な堕落した生活をした」と指摘している点。その内容は、「権力を乱用して不正・腐敗行為に明け暮れ、多くの女性と不当な関係を持ち、高級レストランの裏部屋で酒盛りやどんちゃん騒ぎに興じた」「思想的に病み、極度に安逸するようになったことから麻薬を使用し、他国で病気治療を受けている期間には外貨を蕩尽して賭博場にまで出入りした」と赤裸々に述べられた。張氏の浮華な堕落した生活とは、いわゆる“酒池肉林”の行為だ。

 会議では、「張成沢をすべての職務から解任し、一切の称号を剥奪し、わが党から追放、除名することに関する党中央委員会政治局の決定書が採択された」としている。さらに、「張成沢を排除し、その一味を“粛清”することで、党内に新たに芽生える危険極まりない分派的行動に決定的な打撃を加えた」とする。

 すでに、この時点で国防委員会副委員長で朝鮮人民軍大将だった張成沢氏は、なんの肩書もない、ただ“張成沢”と呼び捨てにされる犯罪者に成り下がっていた。そして、公式文書の中で、“粛清”という処分を行うことが明らかにされていたわけだ。

 北朝鮮の情報については、恣意的に操作され、真実の姿がわからないものも多い。情報を公開しないことで、国家の秘匿性を高めるのが通常だ。しかし、張氏の事件に関しては、積極的に公開を行っている。そして、今回の事件で明らかになったのは、北朝鮮労働党が行う“粛清”という行為には、本来の言葉の意味にはない“処刑”が含まれているということだ。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)