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ゲーセン、マン喫…「女性」に活路を見いだす縮小業界と、儲けられない吉野家のジレンマ

文=松井克明/CFP
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●牛丼が儲からない吉野家も、女性に活路を目指す!?

 そして、牛丼の吉野家も女性客の取り込みを狙う。

 12月6日付『吉野家 店舗解剖(下) グループで新業態乱立』によれば、吉野家が9月下旬に東京・千代田区にオープンした1人鍋の専門店「いちなべ家」は、「女性比率はランチで4割、ディナーで2割。3年で10店程度の拡大を目指すが、女性客のリピーターを増やすことが課題となる」としている。客席は吉野家と違ってゆったり。1席に1つずつIHクッキングヒーターがあり、7種類の鍋(価格は780円、830円の2種類)が提供される。ただし、吉野家の看板を掲げない新業態。来店客数は1日150人程度と想定の200人をやや下回り、10月の月商も450万円と目標の500万円には届かなかった。「吉野家のイメージ(並280円)をもって来店する客には高く感じる」価格設定が足を引っ張っているようだ。つまり、懐の寂しい男性は吉野家へ、消費が活発な女性は「いちなべ家」へということだろうか。

 実は吉野家はビジネスモデルの転換期を迎えている。牛丼事業が儲からなくなっているのだ。「すき家」「松屋」との牛丼の値下げ競争(すき家が12月に期間限定の並240円セールに打って出ることが発表された)が激化した上、牛肉やコメなどの原料高がわずかな収益を圧迫し、13年3~8月期の国内吉野家部門の営業利益は前年同期比72%減の約4億円にとどまった。子会社のはなまるのうどん事業(はなまるうどん)が6億円強と、牛丼事業を上回った。牛丼に頼ってはいられないと経営の多角化を目指し、新業態を模索し始めた。「いちなべ家」もその一環だが、全社的に戦略が共有できていない。

 吉野家は12月5日から「牛すき鍋膳」(580円)を発売。新業態の「いちなべ家」と鍋料理でかぶってしまったのだ。吉野家ホールディングスの安部修仁会長は「今回の新商品と『いちなべ家』は目的が違う」と話す。

 これに対し、この記事を書いた日経MJ記者は文末で「だが記者は思った。『1200店近い店舗を展開する吉野家が満を持して1人鍋を提供するなら、いちなべ家の存在意義はいったいどこにあるのか』」と、日経本紙では見られないような鋭い指摘もあるのが日経MJの特徴だ。

●吉野家が抱えるジレンマ

 ところでこの日経MJ記者は、12月4日付『吉野家 店舗解剖(上) 新商品販売とジレンマ』の中で、東京・千代田区の有楽町店に体験入店したことをレポートしている。同店は12時台のランチタイムの利用客数は400人超。吉野家の1店舗の平均客数約500人に迫る人気店の厨房から吉野家の現状に迫っている。

「吉野家の心臓部は、なんといっても牛丼の具材を煮込む肉鍋だ。その肉鍋に張り付く店員は『マスターポジション』と呼ばれ、店全体を指揮する。店長やベテランが付くことが多い。『盛り付けの早さ、うまさで店長の求心力が決まると言っても過言ではない』(営業部長)」と牛丼肉鍋至上主義なのだ。

「牛丼は肉やタマネギを大量に煮込めば煮込むほどタレがまろやかになってうまくなる。とはいえ、それぞれの具材は20分以内に引き上げなくてはいけない(略)混雑具合を把握しつつ来店客数を予想して、適量の具材を追加投入していく」

 つまり、大量につくればつくるほど牛丼はおいしくなる。しかし、売っても売っても思ったように儲からないというのが吉野家の苦しいところだ。牛丼以外の儲けられるメニューを提供しようにも、吉野家は牛丼中心に厨房が設計されているのだ。

「調理場の大半は肉鍋と炊飯器のスペースでIH(電磁加熱)調理器は片隅にポツンとあるだけ。牛丼をつくることにかけては極めて効率的に設計されているが、ほかのメニューを提供するスペースや設備に乏しい」

 客単価の低い牛丼を高回転させて売上を増やすか(しかし現場は価格競争で疲弊)、客単価の高い牛丼以外の商品を中心に販売することで回転率は低くなるものの売上を増やすか(しかし厨房はそうした作業に向いていない)という吉野家のジレンマに、直面しているのだ。

「牛すき鍋膳」の発売会見でも、安部会長は「牛丼は7~8分で食べ終わるが、鍋は15~20分かかる」と顧客の回転率が落ちることを認め、回転率という「効率性を多少犠牲にしても、落ち着いて食べられる新しい利用機会を提供する」と語っている。

 吉野家の思惑とは裏腹に、客が入れ代わり立ち代わり訪れる吉野家で「落ち着いて食べられる」というイメージを持つ顧客は少ないだろう。やはり「落ち着いて食べられる」のは系列の「いちなべ家」という差別化を図るべきかもしれない。

 牛丼肉鍋至上主義の男性的な吉野家が、女性客の気持ちをつかむには、まだまだ時間がかかりそうだ。
(文=松井克明/CFP)

松井克明/CFP

松井克明/CFP

青森明の星短期大学 子ども福祉未来学科コミュニティ福祉専攻 准教授、行政書士・1級FP技能士/CFP

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