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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第15回

高価でも「安い」と思わせる価格の心理学?購入数や寄付額も大きく左右するアンカー効果

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ハーマンミラー製アーロンチェアとヘッドレスト
 数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

 私はめったに贅沢な買い物はしない。その私の最近のお気に入りは、楽天市場で購入した1万円のヘッドレストだ。私が仕事場で使っている執務用の椅子に取り付けて、首の部分をサポートしてくれるアレである。椅子が1万円するのではなくて、椅子に取り付けるヘッドレストが1万円する。にもかかわらず、普段はワンメーターのタクシー代を払うのすらいやで一駅の距離を歩く主義の私が、「いい買い物をした」と言いながら、満面の笑みでこのヘッドレストで疲れた首を休めている。

 このような現象がなぜ起きるのかというと、価格設定におけるアンカー効果として知られる心理現象が関係している。私のヘッドレストの話を詳しくする前に、一般的にアンカー効果とはどのようなものなのか? 人間の意思決定の研究でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の最新の著書『ファスト&スロー』(早川書房)の中から2つほどエピソードを問題形式で紹介しよう。

【問1】

 アメリカのあるスーパーマーケットで缶入りスープの特売を行った。ただ特売をした場合と、「おひとりさま12個まで」とただし書きをした場合で、どちらが売れ行きが良かったでしょうか?

【答え】

 同じ値引きでも、ただ特売をした時の顧客ひとりあたりの購入数は3.5個だったが、「おひとりさま12個まで」の貼り紙を見た人は平均して7個のスープ缶を買って行ったという。

 これが心理学でいうところのアンカー効果の一例である。ただの特売では、消費者にはいくつ買ったらいいかの目安が存在しない。その場合の顧客行動の平均値は3.5個という、普通に特売品をカゴに入れる消費者にとってはある意味合理的な購入数に落ち着いていた。

 ところが「上限12個」という情報が与えられたとたん、それが心理学的な目安となって、消費者は無意識のうちに「12個の枠の中でどれくらい買って帰るのが、自分の場合お得だろうか?」と考えてしまうようになる。その結果、そもそも12個という最初に与えられた目安が、本来必要な量よりも大きいにもかかわらず、平均して購入していく量はその目安に近づいてしまうという結果を生むのだ。

 この最初に目にした目安の数字に、人間の意思決定がひっぱられてしまう現象をアンカー効果、ないしはアンカリング効果という。

【問2】

 タンカーの原油流出事故で危機にある海鳥を救うための呼びかけで、「5ドル以上寄付するつもりはありますか?」と訊ねた場合と、「400ドル以上寄付するつもりはありますか?」と訊ねた場合で、実際の寄付の額はどれくらい違うだろうか?

【答え】

 この調査は科学教育センターの見学者を対象に行ったもので、もともと環境問題への関心が高い人たちへの問いかけだったため、何もアンカーを示さない場合は平均して64ドルを寄付するという高い結果になっていた。