また、鉄道事業法に基づく業務改善命令は、原因究明の徹底、安全確保の体制づくりや安全意識の徹底などを命じるもの。半年間に2度の正面衝突事故を起こした京福電鉄が、01年に初めて命令を受けた。
国交省はJR北海道のレール検査データ改ざんに関与した社員数人を、鉄道事業法違反(検査妨害)容疑で刑事告発する。刑事告発は保線部署の社員が昨年9月の貨物列車脱線事故直後に、現場のレール検査データに手を加え、異常値を少なく見せようとした行為などが対象となる。
脱線の原因究明を進めている運輸安全委員会も、事故調査の妨害を禁じた同委設置法違反に当たるとして国交省と同時期に北海道警に刑事告発する。道警は刑事事件として捜査に乗り出す方針で、検査データ事件で逮捕者が出ることになる。
JR会社法に基づき代表取締役の選任権を持つ国交省は、数々の不祥事を防げなかった経営責任は重いと判断し、野島氏と小池明夫会長を更迭する方針だ。今回、自殺した坂本氏、前会長の柿沼博彦特別顧問も退任させる意向だった。外部から経営トップを起用して、新体制で4月の新年度から再生のスタートを切りたい考えだった。しかし、坂本氏の自殺で、人事の刷新が先延ばしになる懸念が強まっている。国交省には「今の状況で社長が替わっても、混乱を助長するだけ」との見方が出ている。
16年3月末に、新青森-新函館間の北海道新幹線の開業を控えている。「新幹線をJR北海道で運営できるのか」との危機感から国交省が前面に出て、抜本的な経営改革に取り組むことになったわけだ。
●経営混乱の宿痾、労働組合問題
「脱線火災事故を反省し、全力をあげて企業風土の改善などに取り組んでいる時に、真っ先に戦線を離脱することをお詫びします。お客さまの安全を最優先にすることを常に考える社員になっていただきたいと思います」
11年9月に、北海道・小樽市沖で行方不明だったJR北海道社長の中島尚俊氏(当時)の遺体が発見されたが、その後公開された社員に宛てた遺書には、こう綴られていた。
11年5月に石勝線で特急列車がトンネル内で脱線・炎上し、乗客79人が負傷する事故か起きた。中島氏は再発防止に向け最前線に立ったが、労働組合は社員に休日出勤や時間外労働を押し付けたのは労使協定違反だと経営陣を責め立てた。労使交渉に疲れ果てた中島氏は自宅から忽然と姿を消し、入水自殺した。
JR北海道の宿痾は労働組合だと、長らく指摘されてきた。
1987年の国鉄民営化の際、JR北海道労組は民営化に賛成し、他の3組合は反対したが、反対した組合員がJRへの採用で差別された「不採用問題」が影を落としている。JR北海道労組は経営への関与を強め、労使のなれ合いが生じた。
衆院国土交通委員会は昨年11月22日、野島氏を参考人として呼んで集中審議を行ったが、労働組合問題に質問が集中した。組合への遠慮が安全対策のネックになっているとの指摘があったほか、労組間の対立が社内の連携を妨げているのではないかとの懸念も示された。
相次ぐ不祥事や改善の見通しがつかない業績悪化が続くJR北海道に対し、「日本航空同様に、一度破たんさせなければ再生は不可能」との見方も強まる中、同社は文字通り今年、正念場を迎えている。
(文=編集部)
【続報】
●国交相、JR北海道へ行政処分
JR北海道のレールデータ改竄問題で、国土交通省は1月21日、同社に対し、鉄道事業法に基づく事業改善命令とJR会社法に基づく監督命令を出すと通知した。JR会社法に基づく監督命令が出るのはJRが発足して初めてのことだ。JR北海道の弁明がなければ、22日にも命令が出される。JR北海道は2011年に特急列車脱線火災事故で改善命令を受けており、2度目の行政処分となる。
国交省の通知を受けて、JR北海道の野島誠社長が記者会見。レールの異常を放置したことや検査データの改竄などの不祥事についての内部調査結果を公表する。800人の保線担当社員を対象に聞き取り調査を行った。
太田昭宏・国土交通相は21日の閣議後の記者会見で行政処分の内容を公表した。鉄道事業法に基づき、豊田誠・鉄道事業本部長を「安全統括管理者」から解任するよう命じた上で、安全面などを監視する外部有識者組織の設置を指示。社内体制の抜本的な改善を図り、再発防止に努める。「安全統括管理者」はJR北海道の安全業務を統括するポストである。内部調査で改竄には数十人が関与したことが浮き彫りになった。国交省は鉄道事業法違反(検査妨害)容疑でJR北海道の社員を北海道警に刑事告発する。JR北海道では大沼保線管理室の社員を含めた数十人の処分を検討しているが、数人を懲戒解雇する方針だ。