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サントリー、米社巨額買収は「高い買い物」か?世界展開加速へ「時間を買った」勝算と代償

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サントリーHD本社(「Wikipedia」より/663highland)
 1月13日、サントリーホールディングス(HD)はバーボンウィスキー「ジムビーム」などで知られる米酒造大手、ビームを買収すると発表した。サントリーHDは1株当たりの買収価格をビームの過去3カ月の平均株価より24%高くした。買収価格の当否を判断する基準として、買収される企業のEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)に対する買収金額の倍率がよく使われるが、今回の買収におけるそれは20倍。世界の飲料業界におけるM&A(合併・買収)では10倍強が一般的とされており、サントリーHDはかなり高い買い物をしたといえる。

 買収額1兆6500億円のうち1兆4000億円は三菱東京UFJ銀行からの借り入れにより賄う。サントリーHDは買収金額の8割以上を同行1行のみから調達するが、同行が1つの案件で民間企業に融資する額では過去最高となる。格付投資情報センター(R&I)は1月14日、サントリーHDの発行体格付けを現在の「ダブルAマイナス」から格下げの方向で見直すと発表。日本格付研究所(JCR)も長期見通しを「ネガティブ(弱含み)」に変更。ムーディーズ・ジャパンも同日、発行体格付けを「A3」から引き下げる方向で検討すると発表した。いずれも借入金などの負債が大幅に増えることが理由だ。

 蒸留酒事業は安定的に現金を稼げる。新興国で中間層が増えれば蒸留酒はもっと売れる、との見方が多いが、ビームがサントリーHDの買収提案に乗ったのは“売り時”と考えたからだろう。サントリーはビームの「ジムビーム」などの製品を国内で販売しており、ビームは東南アジアでサントリーHDの商品を販売する提携関係にあるが、サントリーHDは昨年夏頃からビーム買収に向けた本格的な検討を開始しており、その情報が米国の投資家に漏れていた可能性が強いとみられている。

 サントリーの昨年9月末時点での現預金額は6400億円であり、借入金や社債よりも手元にある現金が多い実質無借金であったが、今回の巨額買収で有利子負債が膨脹した。買収がうまくいかなければ借り入れ先の三菱東京銀にも大きなダメージを与えかねないと懸念を指摘する向きもある。

●最後に残った優良案件

 1月13日のニューヨーク株式市場では、ビームの株価は買収価格にさや寄せるかたちで25%高と急騰。米国の著名な投資家が米経済テレビ局の番組に電話出演して、サントリーHDの積極姿勢を高く評価したが、この投資家が率いる運用会社は昨年9月末時点でビーム株全体の2.4%を保有する大株主だった。もっと大きな収益を手にするのは米国を代表する“物言う株主”ビル・アックマン氏で、自身のヘッジファンドで昨年9月末時点でビーム株全体の12.8%を持つ筆頭株主だった。ビームの主要株主らはかねてから住宅関連用品を手掛ける複合企業傘下にあったビームの事業分離を要求し、11年にビームは複合企業から独立した経緯はよく知られている。サントリーHDは巨額買収により、こうした株主や著名投資家たちを大きく儲けさせた。

 企業買収などに伴う貸し出しは「イベントファイナンス」と呼ばれるが、今回のように1つの銀行から1兆4000億円も借り入れるのは珍しい。ちなみにソフトバンクが米スプリントの買収費用として1兆9800億円を借り入れた時には、3大メガバンクやドイツ銀行などから調達している。

 1兆6500億円という投資額は酒類や缶コーヒー、お茶などを合わせたサントリーグループ全体の年間売上高に匹敵する。同グループは1929年に国産初のウイスキー「白札」(戦後はホワイト)を世に送り出した老舗だが、国内市場は少子高齢化の影響で大きな伸びを期待できない。一方、世界市場では「ジョニー・ウォーカー」で知られる英ディアジオがトップで、「シーバスリーガル」を販売する仏ペルノ・リカールが同2位、ビームは同4位だが、同10位のサントリーの年商と合算すると一気に蒸留酒市場で第3位に躍り出る。