――大江さんは、アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)のテレビCMに出てくるブラックスワンを“いい奴だと思う”と本書で書いていらっしゃいます。あのCMで、ブラックスワンは医療保険に入ろうか悩んでいる人たちに「入らなくてもいいじゃないか」とそそのかしますが、どうして彼が「いい奴」なのですか?
大江 まあ、半分冗談なのですが(笑)、アフラックのテレビCMはものすごく上手なんですよ。保険なんて要らないというネガティブな感情から入り、落としどころとして保険は必要だと思わせる。
後田 日常生活の中で何かが損なわれるのではないかという不安は、おそらく完全に払拭できません。それをよく理解したテレビCMだと思います。『保険なんて要らない』とは言うけれど、『本当に? 全く要らないのか?』と問いかけると、なかなか『はい』とは断言できない。あれは、変化球の脅しと言えます。
大江 だから、それでもめげずに『保険は要らない』と言っているブラックスワンは“いい奴”なんですよ(笑)。
――では、生命保険会社のテレビCMで見るべきポイントはどこにあるのですか? テレビCMは保険を選ぶ基準になりえるのでしょうか。
大江 一番はテレビCMで選ばないということですね。見ても、その保険の全容は分からないですから。また、テレビCMを見ている人は、その商品を買ったばかりの人が多いというデータもあります。テレビCMは安心感を与えるためのもので、これから選ぼうとする人には、そこまで意味があるものではないように思いますね。
後田 反面教師として見るのはいいかな(笑)。相変わらずこんな商売をしているのか、と思って見るのが良いですね。
――(笑)。テレビCMでは生命保険のセールスマンや、相談窓口担当者などが出てきて「お客様といつも近くに」といった言葉で、顧客の人生を応援するような演出がなされるものもあります。この本を読むと、実際のセールスマンや相談窓口の言葉の裏を読みとらないと自分が損してしまうおそれがあるように思いましたが、彼らに新規の生命保険加入の相談をする際に気をつけるべき点はなんですか?
後田 彼らがどこからお金をもらっているか、ということが最大のポイントですね。例えば相談窓口ならば、売り上げに対して保険会社からお金をもらっているということになります。すると、より多く売り上げないといけない。顧客に対して必要最小限の利用をしましょうということは言いにくいはずなんです。だから完全にプラン選定を任せてしまうと、多めのお金を支払わないといけなくなる可能性があります。
大江 私は自分の不安の正体を考えることが最初のポイントだと思います。つまり、何が自分は不安なのだろうということです。
リスクとクライシスという言葉がありますが、リスクは予測可能な危機、クライシスは予測ができない危機です。例えば長生きはある意味リスクですし、歳をとって病気になるというのもリスクです。同じく歳をとって働けなくなるのもリスクです。これらはある程度予測できますよね。一方、クライシスというのは、突然心臓発作で亡くなったり、自動車事故を起こしたり。こういうものは保険でカバーするといいと思うのですね。
そして、次のポイントは保険の費用対効果です。保障に対してどのくらいの保険料が支払われるか。
後田 そういう意味では、身近に感じやすいリスクを例にあげて、保険をすすめてくる人の話は信じたらいけません。例えば、中高年の人たちは、窓口に行くと『これから入院リスクが高まる』『心筋梗塞のリスクが高まる』などと言われて、生命保険を紹介されます。でも、そもそもリスクが高ければ高いほど、生命保険との相性は悪くなるはずなんですよね。
――なるほど。リスクが現実化したときに多額の保険金を支払うのは生命保険会社ですからね。つまり、「リスクが高まる」という言葉で煽って、商品を買ってもらうからには、それでも収益が上がるくらい高い価格設定がなされているか、意外に保険金支払いが少ないか、ということですよね。
後田 そうですね。不安があるから商品を購入して解決したいというのは、気持ちとしてはよく分かります。だから『リスクが高まる』という言葉をどのように受け止めてもらうかが勝負なのです。
――では、具体的に窓口担当や営業のセールストークで「この言葉を使っていたら、疑った方がいいかもしれない」というものはありますか?