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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第61回

巨大地震の発生、不倫暴露作戦は棚上げ~ジャーナリストの血が“新聞業界のドン”を動かす

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巨大地震の発生、不倫暴露作戦は棚上げ~ジャーナリストの血が“新聞業界のドン”を動かすの画像1「Thinkstock」より

【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。その直後、新聞業界のドン太郎丸嘉一から2人は呼び出され、大都、日亜両新聞社の社長を追放する算段を打ち明けられる。

「深井(宣光)君、わしじゃ。今、少しええかいのう」
「ああ、(太郎丸嘉一)会長ですか。なんでしょう」
「実はじゃな、今晩、ちょっと付きおうてもらえんかいのう。どうじゃ」
「4日前に話を聞いたばかりじゃないですか。何か、動きがあったんですか」
「それはないんじゃがな、ちょっと手順を変えようと思いつきよってな」
「どういうことですか」
「今晩な、わしは『週刊真相』と『深層キャッチ』の編集長と会いよるんじゃ。そこに君らも同席してほしいんじゃわ。午後6時からじゃが、遅れてきよっても構わんからのう」
「会ってどうするんですか。まだ決定的な写真はないんでしょう」
「それはそうじゃが、写真が撮れよる前に、君に大都のスキャンダル、吉須君に日亜のを話しよってほしいんじゃ。どうじゃ、頼めんかのう」
「編集長に話しても、記事にする時、記者にまた同じ話をしないと駄目です」
「いや、お主らが来よるなら、記者も一緒に連れて来させるよって、どうじゃ」
「わかりました。でも、吉須さんは知りませんよ。それでもいいですか」
「いや、それは困るぞ。わしの代わりにお主が連絡を取りよって頼んでくれんかのう」
「少し遅れてもいいんですね。吉須さんと連絡を取って、来てくれるように頼みます」

 深井宣光は太郎丸嘉一の依頼を了解したが、返事がない。

「会長、聞いていますよね。どうかしたんですか」
「…。おい、ものすごい揺れじゃぞ。お主はわからんのか。どこにおるんじゃ! 資料室におるんじゃないんか」
「僕は今、日比谷公園の入り口から少し園内に入ったところです。タバコを吸いに出ているんです。大きな地震ですか」
「ものすごい横揺れじゃ。全く収まる気配がないぞ。外では気づかんのかのう」
「え、そんな大きい地震ですか。…。今、立ち止まりました。…。信号の柱や街灯が揺らいでいます。銀座サイドのビルも揺れているのがわかります。…。あ、立っていても、体が揺れます。こんな経験初めてです」
「わしも80年、生きちょるが、こんな大地震、初めてじゃ。まだ収まらんぞ」
「あ、銀座側のビルから人が飛び出してきています。会長、大丈夫ですか」
「心配せんでええ。わしの部屋にはデスクと応接セット、会議用テーブル、それと本棚が置かれちょるが、本棚は壁に留めちょるし、ガラス扉が付いちょる。本がガラス扉にぶつかっちょるが、幸い、ガラスは割れちょらん。テーブルに積んじょった本や書類が崩れ落ちただけじゃ」
「どんどん、ビルから人が出てきます。会長も外に出た方がいいんじゃないですか」
「少し、揺れが収まりよったようじゃ。今、テレビをつけよった。震源は三陸沖で、マグニチュード(M)7.9じゃ。宮城県で震度7の烈震を観測しちょるぞ。気象庁が岩手、宮城、福島に大津波警報を出し、沿岸部からの避難を呼びかけちょる。これから未曽有の事態になりよる。もうジャーナリズムがどうじゃら言っちゃらおれん」
「じゃあ、どうしますか」
「おお、また揺れちょる。さっきの話は棚上げじゃわ。わしは今から築地の国民本社に行きよる。多分、100年や200年ぶりのことじゃないぞ。1000年に一度おきよるような事態かもしれん。わしはジャーナリストとして動きよるほかないじゃろ」
「わかりました。僕は資料室に戻ります。一応、吉須さんには連絡しておきます」
「ふむ。じゃがな、4日前の話は当分棚上げじゃ。わかっちょるな。落ち着きよったら、わしの方からまた連絡しよるけん、待っちょれや」
「わかっています。当分、棚上げ、と伝えます」

 太郎丸が深井にかけた電話を切り上げたのは午後3時だった。深井は携帯電話をポケットにしまい、日比谷公園の出入り口に向かって歩き出した。日比谷通りの銀座側の歩道には、ビルから飛び出したサラリーマンたちが増え始めていた。

 有楽町日亜オフィスビル3階のジャナ研の資料室に戻るつもりだったが、しばらく歩いて深井は立ち止まり、もう一度、携帯電話を取り出した。資料室に戻る前に太郎丸との約束通り、吉須に電話しようと思ったのだ。

BusinessJournal編集部

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