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迷走するカジノ解禁、誤解流布で混乱する議論~反対派活発化で展開緊迫、公営でもリスク大

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●カジノ施設に対する規制・監視監督体制

 議連実施案はカジノ管理委員会について、立法府・行政府から独立した権限を有する機関として、カジノ施設の運営の詳細に関する規則を制定し、カジノ施設とその運営に関与する主体の免許・認証付与、認可及びカジノ施行の監視、監督、違法行為の摘発などを担うとしている。具体的には、カジノ管理委員会の職員のうちから任命される査察官が、カジノ施設への立ち入り、運営・警備・監視システムの閲覧・監視、財務・会計資料等の閲覧などのカジノの運営全般に関する包括的な監視を実施し、カジノに関わる不正行為を摘発し、器具などの一時停止や現状保全を命ずるとともに、逮捕権も有するとしている。議連実施案は、基本的に、カジノの運営に関するあらゆる行為を規制・認証・監視の対象とするとしており、極めて厳格な監視監督体制を取ることを想定している。

 政府は、カジノ施設における犯罪防止及び有害な影響の排除を適切に行う観点から、ゲームの公正性の確保、金銭の代替物の適正な利用、反社会的勢力の排除など、必要な措置を講ずるとしているが、具体的な措置は、推進法案には規定されていない。しかし、議連実施案においては、入場者全員の本人確認の義務付け、一定金額以上の賭け金行動をする個人の本人確認や疑わしい行為の規制当局への報告義務、現金やチップを使用しないキャッシュレスシステムの導入の検討などによるマネーロンダリング(資金洗浄)防止、賭博依存症患者の増大を防止し、対策を行うための機関の創設、顧客本人やその家族の要請に基づき、当該顧客をカジノ施設に立ち入らせないようにする依存症予防措置(自己排除プログラム及び家族強制排除プログラム)の導入の検討など、かなり具体的かつ詳細に検討されている。

 なお、カジノの売り上げに大きく貢献する大口顧客(VIP客)を囲い込むための紹介業者(ジャンケット)については、反社会的勢力が入り込む危険性があると指摘されるが、この点については、議連実施案にも記載がなく、今後の重要検討課題である。

●納付金、入場料

 議連実施案は、納付金をもって地域経済の振興と少子高齢化に直面した国の財政に資することのほか、社会保障の充実、文化芸術の振興及びその発信力の強化に資することを目的とするとしている。また、カジノ施設の顧客のうち、日本人に限って入場料を課す施策は、日本人のカジノへの過度の関与(依存症)を一定程度抑止する効果を期待できるとしている。もっとも、入場料徴収は、むしろ「せっかく払ったのだから、長くいないと損」と入場者に思わせ、カジノ施設から撤退するタイミングの判断を誤らせる要因となり、依存症対策としては疑問であるとする見解もある。また、入場料徴収には、需要抑制効果があることから、国や自治体が得られる納付金の総額に影響すると考えられる。よって、慎重な検討が求められる。

 なお、国や自治体が徴収できる納付金や入場料の具体的な金額・率については、推進法案においても議連実施案においても、規定されていない。特に納付金については、その割合(率)が、民間事業者の投資傾向に直結し、日本におけるIRのあり方に強く影響する。したがって、IRをめぐる国際競争上の観点も含め、緻密な検討が必要である。

●実質的な議論が必要

 議連実施案は、カジノ施設の設置及び運営をする民間事業者がカジノ管理委員会から許可を得るための要件として、不適切な者を排除するための欠格要件を定めるとともに、法令遵守のための組織内体制、高い社会的責任、高潔な倫理観、社会的信用度、財政的資力や資金調達力、運営・経営能力、経験などの適格要件を定めるとしている。

 これを超えて、特定業種や外資系企業に対して、その一事のみを理由として参入規制することは、不適当である。仮に参入規制したとしても、関連会社や提携会社の参入を阻止することまではできず、規制としての実効性がない。また、経済的自由権(営業の自由)や法の下の平等を定める日本国憲法上も許容されない。従って、例えば、青少年に大きな影響を与え得るテレビ局などのメディアや、実態はギャンブルに近いとも指摘されるパチンコ関連業者であっても、上記に掲げた要件などから関与が不適当な者と判断されない限りは、カジノ施設の設置及び運営をする民間事業者となることができる法制になるであろう。メディアについては、カジノについての過剰な広告や宣伝自体を規制すれば足りると考えられる。

 また、カジノ施設からの収益の大半が海外に流出するような事態は避けるべきであるが、これについては、事業者から徴収する納付金の額や使途の明確化及び、「特定複合観光施設区域」や民間事業者の認定・許可基準を、地域振興や財政改善といった政策目標を実現するに足る緻密なものとすることなどによって対応すべきである。

 カジノの運営には独特のノウハウが必要であるとともに、IRを構成するカジノ以外の諸施設(ホテル、レストラン、ショッピングモール、劇場、会議場など)を魅力的なものにするためには、日本的なセンスや日本企業のノウハウも必要である。従って、実際には海外のカジノ施設を運営する外国企業や、そのような外国企業と日本企業との合弁会社の参入が想定される。

 推進法案では、カジノ施設の顧客として売り上げに大きな影響を与えると想定される中国人などの外国人へのビザ緩和の有無などは規定されていない。議連実施案においても記載がない。

 カジノを解禁するかどうか、解禁するとしてどのような制度の建て付けにするかについては、単なるイメージやイデオロギーにとらわれない実質的な議論が必要である。今国会においても充実した審議が求められる。
(文=山脇康嗣/弁護士)

●山脇康嗣(やまわき・こうじ)
 1977年大阪府生まれ。慶應義塾大学大学院法務研究科専門職学位課程修了。東京入国管理局長承認入国在留審査関係申請取次行政書士を経て、弁護士登録。入管法のほか、カジノ法制に詳しい。現在、第二東京弁護士会国際委員会副委員長。主要著書として、『詳説 入管法の実務』(新日本法規、単著)、『入管法判例分析』(日本加除出版、単著)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規、編集代表)、『事例式民事渉外の実務』(新日本法規、共著)、『こんなときどうする外国人の入国・在留・雇用Q&A』(第一法規、共著)がある。

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