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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第64回

巨大新聞社社長の不倫暴露作戦、いよいよ始動~新聞業界のドン、2カ月の沈黙を破る

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「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。その直後、新聞業界のドン太郎丸嘉一から2人は呼び出され、大都、日亜両新聞社の社長を追放する算段を打ち明けられる。しかし、その計画を実行に移す直前に東日本大震災が起こった。

 日本ジャーナリズム研究所首席研究員の吉須晃人と深井宣光の二人が食事を終えたのをみて、ボーイがやってきて問いかけた。

「あとはデザートとお茶ですが、ここで召し上がりますか。向こうのお席にしますか」

「向こうに行くか。お茶はコーヒーだな」

 吉須が答えると、深井も頷き、席を立った。ボーイが案内したのはスカイラウンジ側の4人掛けのボックス席だった。席に着くと、すぐにデザートのケーキが運ばれてきた。

「電話では(太郎丸嘉一)会長は何か忙しそうで、用件を話すと、すぐ切っちゃたんです」

 深井がフォークでケーキに切れ目を入れながら、移動する直前の質問に答えた。

「あの人のことだから、多分、国民本社の編集局にでも陣取っていたんじゃないか…」

 今度はボーイがコーヒーを運んできて、また会話がしばらく中断したが、吉須が続けた。

「まあ、うちの村尾(倫郎)や君のところの松野(弥介)に比べればましだろうが、現場は迷惑だろうな」
「確かにそうです。でも、彼が居るから、国民新聞がかろうじてジャーナリズムの一線を踏み外さずに残っているともいえます」
「それはそうかもしれんが、あの2000億円の新聞社救済ファンド構想には協力する気になれないぜ。さっきも言ったけど、百害あって一利なしだぜ。君はどう思う?」

 そういうと、吉須はコーヒーカップを取り上げ、口に運んだ。

「会長はその話はしないと思います。松野と村尾さんの不倫を暴く話です。大地震の直前に電話してきた時はその話を少し急ぐ必要が出てきたと言っていました。でも、大地震でペンディングになったわけですけど、それを再開する、という趣旨のようでした」
「そうか。それならいいけど、決定的な写真は撮れているのかな」
「それはわかりませんよ。ただ、総会の日程を考えると、どんなに遅くても暴くなら6月初めです。それを考えてのことだと思います」
「今日、ホテルに入る時、不審な車、止まっていたか。居なかったと思うけどな…」
「大地震の前に来た時、止まっていた濃紺のバンですか。探偵の車なんでしたね。気をつけていなかったけど、居なかったような気がします」
「そうだろ。大地震以来、村尾の二番町のマンションの入り口で、黒塗りのワンボックスカーは見かけない。毎日みているわけじゃないけどな」
「まだ、2週間くらいありますから、これから動くということかもしれません。とにかく、明日、会長に会えばわかることです」
「そうだな。あの二人がジャーナリズムの癌であることは間違いないから、追放した方がいいのはわかっている。でも、うまくいくかどうかね」
「ダメもとで、いいじゃないですか。大体、会長がやっている話だし、僕らは週刊誌の取材に応じるだけですから」
「よし、わかった。迷いが吹っ切れた」

×××

 吉須と深井が料亭「すげの」に着いたのは翌5月12日、木曜日午後5時50分だった。

 連休明けから、梅雨の走りのような天気が続いていた。前日の11日は終日雨が降り、この日も午前中は曇天だったが、午後から小雨が降り出した。