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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第77回

修道院が人身売買!? 保守的価値観が引き裂いた母子の絆

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雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。


『あなたを抱きしめる日まで』

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元エリート記者のマーティン・シックススミスはある日、50年前に生き別れとなった息子を探すフィロミナと知り合う。そこでシックススミスは自身の本を執筆するため、彼女の息子探しを手伝うことに。取材と捜索の旅を続ける中で、彼らはかつて存在したいびつな社会システムと向き合うこととなる。

監督:スティーヴン・フリアーズ/出演:ジュディ・デンチ、スティーヴ・クーガンほか 日本では3月15日より新宿ピカデリー、なんばパークスシネマほか全国ロードショー

 イギリス映画『あなたを抱きしめる日まで』は、50年間に及ぶ、アイルランドとアメリカの間で引き裂かれた母子の実話の映画化。原作者のマーティン・シックススミスは元BBCの記者で、1997年から労働党のブレア政権の報道官を務めたが、スキャンダルに巻き込まれて02年に失職。失意の中でジャーナリストに戻って何か本を書こうとしていた。

 そんな彼は、あるアイルランド人女性に「自分の母が50年前に生き別れた息子を探しているんだけど」と頼まれた。政治にしか興味がなかったシックススミスだが、出版社からはヒューマンな題材のほうが売れると言われ、取材してみることにした。64歳になるフィロミナ・リーは52年、14歳で行きずりの男との間に子どもを妊娠し、ショーン・ロス修道院に入れられた。当時のアイルランドでは、カトリックの厳格さゆえ、未婚の母は女子修道院に強制収容され、生まれた息子アンソニーは2歳で里子に出された。フィロミナの承諾もなく、どこに引き取られたのかもわからない。シックススミスはフィロミナと2人で息子の行方を調査する。

 未婚の母用修道院は監獄や精神病院に近いもので、外出は一切禁止。朝から晩まで洗濯をして働く。しかも、生まれた子どもは母の承諾もなしに「売られた」。修道院は里子を斡旋して利益を受け取っていたのだ。しかもアイルランド政府は、この非人道的行為を承認していた。

 その実態はすでに『マグダレンの祈り』というノンフィクションに描かれ、映画化された。マグダレンは聖書に登場するマグダラのマリアのことで、かつて娼婦だったがキリストに救われ、彼の死を看取って聖女になった。フィロミナもカトリックの聖女からその名をつけられた。聖女フィロミナは処女のまま死んだ純潔の象徴だ。フィロミナはカトリックの処女崇拝の犠牲者だ。

 ショーン・ロス修道院は里子に関する記録を一切保管していなかった。証拠隠滅のために焼却していたのだ。

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