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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第68回

大震災の余韻が消えない中、不倫暴露作戦決行~“無名”な新聞社社長に注目を集められるか?

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 だが、二人に行動が変わったと思われるのもよくない。この2週間、深井は出勤しないのはこれまで通り1日か2日にし、後は一応出勤するが、資料室には1~2時間しか滞在せず、外出することにしていた。その日は銀座で昼食を取り、午後1時半過ぎに資料室に顔を出した。そして、1時間ほど在席、書店2カ所を覗いて「すげの」に向かったのだ。

「フーさんじゃないの。お早いお越しで……」

 硝子戸を開けると、「すげの」の若女将が深井を1階の洋室に案内した。2週間前、吉須と二人で、『週刊真相』と『深層キャッチ』の編集長と記者の取材を受けた部屋だった。
「4時ですよね。それまで、どうされます? 朝刊とコーヒーでもお持ちしましょうか」
「お願いします。スーさんも少し早く来ると思いますよ。待っても20分程でしょう」

                ×××

 吉須が姿を見せたのは深井の予想通り約束の時間の15分ほど前だった。若女将に案内されて部屋に入ってきた吉須は入口を背にした深井の対面の椅子に座った。

「おい、早いじゃないか」
「ええ、資料室にあまり長居したくなかったものですから。3時半前に着きました」
「そうか。伊苅と一緒に居たくないということかな…」
「まあ、そんなところです。“二重スパイ”かと思うと、なんとなく嫌なんですね。でも、吉須さんはどうしていたんですか、この二週間?」
「ちょっとね。暇を持て余すようなことはなかったさ」
「また、ボランティアですか」
「そんなところだ。がれきの処理なんて全く進んでいない。君、この間、言っていたよな。『政治家たちの熱が冷めてしまった』って」
「この間の打ち合わせの時ですね。『政治家たちが“平成の後藤新平になる”と息巻いていたのは1カ月くらいで、今は“後藤新平”の“ご”の字も言わない』と話しました」
「今の国会をみていると、関東大震災からの復興で男を上げた後藤新平のような男は出てこないさ。『一つになろう、日本』なんていうの、本当に白々しい。それを実感してきた」
「例えは悪いですけど『人の噂も75日』といいます。日本人の心の奥を覗(のぞ)き込めば、大地震のプレゼンスは徐々に小さくなってきているのは間違いないでしょうかね」
「多分、会長も、その辺の日本人の心理を読んで、大都の松野と日亜の村尾の不倫現場を暴こうと、また動き出したんだろうけどな」
「でも、どうですかねえ。僕は疑問なんです。マスコミはまだ大地震一色でしょう」
「そうだよ。これから暑くなると、電気の問題もクローズアップされてくるしな」

 吉須がテーブルの国民新聞朝刊に目をやった。

 一面トップに「7月から電力15%制限/経産省発表、大口需要家が対象」という大見出しが躍っていた。深井も見出しに目を落として呟いた。

「猛暑だったら大変ですよね。冷房が自由に使えない夏なんて、今からぞっとします」
「いくら大新聞が堕落していると言っても、これほどの天変地異と想定外の原発事故に遭遇したんだから、新聞が2、3か月で通常の紙面に戻るわけにはいかないぜ。まあ、半年は地震関連に大きなスペースを割くんじゃないか」

 この時、若女将がコーヒーを持って入ってきた。吉須の前に置くと、二人を交々見た。
「今、たーちゃまから電話がありました。『少し遅れる』ということでした。『ケーキでも出してやれ』ということでしたけど、どうされますか」
「いや、今はいいよ。会長がきたら、我々にもコーヒーをもう一杯、頼む。ケーキがあるんなら、その時に一緒に出してくれればいい。深井君、それでいいよな」
深井が頷くのを見て、若女将は部屋を出た。
「多分、新聞は月命日みたいに毎月11日は大地震を思い返すような紙面をつくるでしょうね。最低1年は続きます」
「週刊誌だって数年間は『祥月命日(しょうつきめいにち)』に大地震特集をやるだろうな。それは同じだろう。でも、毎週の誌面は秋になれば変わるんじゃないか。ヌードも載るようになるぜ、きっと」

BusinessJournal編集部

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