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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第71回

大震災の影響で合併はご破算?~社長の不倫スキャンダルの対応に追われる巨大新聞社

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 あっけにとられたような表情を浮かべたままの北川をみて、社長の松野は合併をご破算にしようと判断した経緯の説明を始めた。ある意味で、松野が不信感を決定的にした原因は些細なことだった。大地震から1週間後の3月18日の電話のやりとりだった。

×××

 大地震直後は大都、日亜両社の受けた被害がどんなものか、把握できなかった。しかし、1週間たち、おおよその状況がわかり、松野は「これなら合併計画を予定通りに進めてもいいだろう」と思い、日亜社長の村尾に電話した。松野は村尾も異論はないと高を括っていたが、村尾が全く違う反応をした。村尾は青森、岩手、宮城、福島の東北四県の部数を引き合いに出し、「しばらく様子をみませんか」と持ち出したのだ。

 4県の3大新聞部数は大都約25万部、国民約15万部、日亜約10万部だった。日亜は大都の半分以下の部数で、村尾は日亜の被害が軽微だと言わんばかりだった。松野は腸が煮えくりかえるような怒りを覚えた。しかし、それを押し殺し、村尾の意向を確認した。

「5月の発表は延期したいんだな」
「そういうことです」
「新媒体の方はどうするんだ?」
「これは検討を続ければいいと思います。うちの小山には『落ち着いたら話し合いを再開する』ように指示していますので、小山の相方の北川君にもそう言っておいてください」
「わかったが、合併の方は君の方から連絡してくるんだな」
「ええ、被害状況がはっきりした段階で僕の方から先輩にお話しするようにします」

 二人のやりとりはこれで終わったが、以来、村尾からは音沙汰なしで、松野の堪忍袋の緒が完全に切れてしまったのだった。

 北川はまだ腑に落ちない様子で、上目遣いになった。

「社長は3月18日のあとは村尾さんと話したりしたことはないんですか」
「それは当たり前じゃないか。こちらから電話することはないからな。それに、向こうからも音沙汰なしだしな。とにかく、俺はもう村尾のような奴とは付き合う気はないんだ」
「…」

 松野が子供じみた性格なのことは社内でも周知のことだったが、北川は今更ながら唖然として、すぐに言葉が出なかった。それでも、「ここは何も言わずに引き下がるわけにいかない」と思い直した。

「社長の気持ちはよくわかります。ただ、今度の一件では日亜がどうするのか、知っておいた方がいいように思いますが…。知らずに対応すると、不利になるような気もします。どうでしょうか」
「…そうだな、知っているのに越したことはないな。だが、誰を窓口にするか…」

 松野は腕組みをして考え込んだ。しかし、松野の口から北川への指示はなかなか出てこない。仕方なく、北川が次の提案をした。

BusinessJournal編集部

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