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“魂”にすがるメディアの罪 ブラック企業的精神論の経営本、なぜ続々刊行?

文=松井克明/CFP

 富士フイルム構造改革では、06年1月には約5000人を、08年にも再び5000人を削減。また二人三脚でシェア拡大に歩んできた写真フィルムの大手特約店体制も見直し、営業権を買い取って直販体制に移行している。

・法則5…決断に時間をかけるな

 傷が深くなる前に、いかに早く決断できるか。写真フィルム事業への機敏な対応は「気になることがあると、担当者に直接電話し、説明を求めるという古森会長流のコミュニケーション」が背景にあるという。

●富士フイルムのタイアップ的な特集

 古森会長のインタビューも掲載している(『古森会長が激白!「勝ちにこだわって生き延びた」』)。しかし、どこを読んでも富士フイルム賛美となっているのが気になる。それもそのはず、古森氏は東洋経済新報社から『魂の経営』という単行本を昨年11月に出版しており、その売れ行きが順調なこともあって、今回はタイアップ的な特集のようだ。

 もちろん、背景には、出版不況と投資環境のIT化で「会社四季報」が重荷になりはじめ、経営を見直すべきという東洋経済の危機感や、編集長が替わって新機軸を打ち出したい「週刊東洋経済」編集部の思惑も感じられる。

 しかし、どうも経営者にスリ寄って売ろうとするつくりが見え隠れする。例えば『魂の経営』では、その書名からもわかるように、精神論全開。第五章「会社を思う気持ちが強い人は伸びる」という章タイトルにも表れているが、会社にとって都合のよい自説を展開する。

「伸びることができる人の条件として、もう一つ私が確信していることがある、それは、会社を思う気持ちが強い人、オーナーシップを持って会社のために仕事ができる人だ。『自分が成長できればいい』『自分がいい思いができればいい』と考えている人と違って、会社のために組織やチームのために、同僚や先輩、部下や上司のためにと考えている人は、人一倍努力をする。多くの人を、チームを、組織をうまく機能させるためには、大変な努力をする必要がある。自分のために働くよりも、はるかに難しく、最大限の努力をしなければならない。このことが、人を大きく成長させるのだ」

 ぱっと聞いただけでは正しいようにも聞こえるが、こうした個人よりも企業を優先させようとする企業の論理は注意が必要だ。ブラック企業の経営者たちにとって都合のいい解釈に利用できる福音になり得るからだ。「会社」という部分を「ブラック企業」に置き換えてみればわかるように、ブラック企業が自らを正当化できる「ブラック企業は労働者を成長させる」論になりかねないのだ。

「ブラック企業」批判を続けるべき東洋経済には、ブラック企業経営者が喜ぶような出版物を出すよりも、もっと現実を見すえた(出版不況に苦しむ自らの立場を棚に上げない)「勝ち残り」の特集を企画してほしいものだ。

 そういえば、新聞業界でほぼ「本業消失」状態の毎日新聞社も稲盛和夫氏の『燃える闘魂』という根性論の経営本を出している。『魂の経営』に『燃える闘魂』……なんの論理もない「魂」にすがらざるを得ないマスメディアの先行きは暗い。
(文=松井克明/CFP)

松井克明/CFP

松井克明/CFP

青森明の星短期大学 子ども福祉未来学科コミュニティ福祉専攻 准教授、行政書士・1級FP技能士/CFP

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