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松本サリン、福岡一家殺人…被害者が“犯人”扱いされる報道被害、なぜ起きる?

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    ※画像:『報道被害』(梓澤和幸/著、岩波書店/著)

 大きな事件や事故が起きるたびに、マスコミが、被害者や遺族を取り囲んでカメラを向け、マイクを差し出す。そして「どんなお気持ちですか」と問いかける。――そんな光景をテレビなどで見たことがある人も多いのではないでしょうか。

 また、松本サリン事件をはじめとして、ある人物を犯人と決めつけて報道することも後をたちません。

 報道されてしまった人の生活基盤、人間関係、名誉などを破壊し、深刻な人権侵害をもたらす、報道被害問題。

 この問題に弁護士として取り組んできた著者が、報道被害がくりかえされる原因を検証し、被害救済のあり方についてわかりやすく解説しているのが、岩波新書から出版されている『報道被害』(梓澤和幸/著、岩波書店/著)です。2007年に出版された本書では、権力的なメディア規制によらずに、取材や報道を変える道を提言しています。

 本書では、警察によって被疑者と疑われ、警察情報を鵜呑みにするメディアによって名誉やプライバシーが侵害された例として「松本サリン事件」を、集中豪雨型取材によって犯罪被害者のプライバシーが侵害された例として「桶川ストーカー殺人事件」を、犯罪被害者の家族が犯人扱いされてしまった例として「福岡一家四人殺人事件」を取り上げています。

 こうした「報道被害」の事例を紹介しながら、著者は報道被害をもたらす原因として、次のようなものを挙げています。

(1)「他社よりも早く」というメディア同士の過酷な競争
(2)取材し報道する側と、取材される側の力の相違
(3)メディアが犯罪報道の情報源を警察に過度に依存せざるを得ない状況
(4)メディア経営陣と幹部に浸透している、利益至上主義を優先させる思想
(5)現場取材人とそれを指揮するデスクの人権感覚の欠如

 また、これらの原因を踏まえ、著者は次の4つの施策を提言しています。

(1)報道被害者の精神的、経済的負担を軽減するための救済制度づくり。それを支える報道評議会、市民グループ、弁護士グループの設立
(2)起訴されるまでの事件報道匿名化と警察情報の公開
(3)商業主義に陥っているメディア経営陣や編集幹部にメスを入れる
(4)メディア内部に人権思想を浸透させる

 事件報道の記事を書いているジャーナリストたちには、当事者を困らせてやろうというような悪意はないのかもしれません。しかし、マスメディアは「第四の権力」と呼ばれるほど圧倒的な力をもっているだけに、報道被害は非常に深刻な問題です。

 今から7年前に出版された本書ですが、今読んでみても、気づかされること、考えさせられることは多いはず。報道不信が高まっている今だからこそ、読んでみてほしい一冊です。
(新刊JP編集部)

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※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。