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深夜の“落語”番組、なぜ斬新で釘づけ?話題のネタを見事な「噺」に仕上げる芸術的驚き

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噺家が闇夜にコソコソ』公式サイト(「フジテレビ HP」より)
 主要なテレビ番組はほぼすべて視聴し、「週刊新潮」などに連載を持つライター・イラストレーターの吉田潮氏が、忙しいビジネスパーソンのために、観るべきテレビ番組とその“楽しみ方”をお伝えします。

 昔、友人が自宅(しかも超狭いアパート)に噺家を招いて、独演会を催していたことがあり、生で聞く落語の迫力は肌で感じたことがある。が、落語そのものにハマることはなく、接点も持たずに生きてきてしまった。噺家の醸し出す独特の空気感と巧みな言葉で綴る世界観にはぐっと引き込まれるものがあることは知っているのだが、テレビではとんと観る機会がない。演芸番組か長寿テレビ番組『笑点』(日本テレビ系)くらいか。ただし、笑いの質が年輩向けで、正直あまり面白いとは思えない。要は「寄席へ行け」って話でもある。

 が、この春から『噺家が闇夜にコソコソ』(フジテレビ系)という番組が始まった。単純に落語を披露するのではなく、噺家たちが話題の人やニュースの現場を取材し、「噺」として完成させてお披露目するという番組だ。切り口の斬新さに感心した。とにもかくにも、出てくる噺家たちの話術が手練れである。深夜でも思わずぐっと引き寄せられる。というのも、ニュース番組でもワイドショーでも、微妙に編集されて1分程度でまとめられてしまうような小さなネタを、噺家独自の「盛り込み」と「色付け」で魅力的なネタに仕上げているのだ。

 個人的なお気に入りは、見た目がやや新宿二丁目テイストの桃月庵白酒(とうげつあんはくしゅ)。ふくよかな首回りと色白のもち肌、どっしりと安定感のある体幹をもつ噺家で、同番組では「渋谷のギャル学校・BLEA学園」や「伝説のオネエ・吉野ママ」などのネタを担当した。取材内容を噺家がまとめて話すと、こんなに面白くなるのかと驚いた。もちろん取材対象者やネタ次第なのかもしれないが、テレビの前に釘づけになったことは確かだ。画面に映っているのは噺家だけなのに、情景が目に浮かぶとは、これいかに。時事ネタも下ネタも持ちネタもこっそり含ませ、数分間の噺に仕上げるのは芸術でもある。

●テレビに期待したい、噺家の活躍の場

 また、若手噺家たちによる「ニュース大喜利」も、出来不出来にバラツキはあれど、現代用語とイマドキの感覚が活きていて面白い。年寄りの噺家には使いこなせない日本語と感性がある。40代の私は年寄りと若手のちょうど狭間世代ではあるのだが、年輩の噺家の笑いよりも若手の笑いのほうが素直に笑える。精神的にこじれがありそうなネガティブイケメン噺家・立川春吾も気になると言えば気になる。

 実は、この番組に出てくる噺家の中で、知っていたのは立川談笑だけだった。同じフジテレビの『とくダネ!』にプレゼンターとして出ていて、柔和な声だなと認識していたのだが、それ以外では観たことがなかった。落語と接点を持たずに生きてきてしまった私は、その程度の認識しかない。ま、でも、そんなもんだと思う。一般のおばちゃんなんて、CMや帯番組、ドラマに頻繁に出てこないと認識できないのだから。

 手練れの噺家たちがその実力を披露できる場が、テレビにもっとあればいいのに。レポーターだのコメンテーターだの天気予報だのと、瞬間風速的に登用するのではなく、「作為的に手の込んだ話術」をお披露目してほしい。噺家って、扱いが面倒くさい巨悪事務所にも入ってなさそうだし、基本的には芸達者なのだから、使い勝手はいいはず。

 とはいえ、『闇コソ』が下手に大人気になって、制限だらけのゴールデン帯に移行することだけはやめてほしい。ずーっと深夜枠で自由気ままにコソコソしていてほしい。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

●吉田潮(よしだ・うしお):
ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)、「ラブピースクラブ」(ラブピースクラブ)などで連載中。主な著書に『2人で愉しむ新・大人の悦楽』(ナガオカ文庫)、『気持ちいいこと。』(宝島社)、『幸せな離婚』(生活文化出版)など。カラオケの十八番は、りりぃの「私は泣いています」、金井克子の「他人の関係」(淫らなフリつき)など。