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吉野家「ミスター牛丼」、なぜ鮮やかな退任?熾烈競争、重なる危機を乗り越えた不格好経営

文=福井晋/フリーライター
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 例えば、すき家の場合、牛丼メニュー10点をはじめメインメニューが約40点、サイドメニューも約30点揃えている。対して吉野家のメインメニューは牛丼メニュー4点を含む約20点、サイドメニューも10点あまりしかない。そのため、すき家は牛丼の値下げキャンペーンをしても、その売り上げ減少分を他のメニューでカバーできるが、少数メニューの吉野家はこれができない。

 一方、安部氏は08年4月に行った講演の中で「吉野家の独自性は牛丼一筋の単品経営を続ける中で培われ、牛丼の日々の改善の連続性の上に吉野家の価値がつくられた」と述べ、「外食産業の常識は『商品は客に飽きられる』、だから『メニュー数を増やす』にある。しかし、吉野家では『商品を飽きさせないものにする』、そのために『いかにして飽きさせないか』を追求してきた。これを外食産業では『吉野家の非常識』というが、社内では『吉野家の超常識』といっている」と、少数メニューにこだわる理由を説明している。

 業界関係者は「この非常識こそ、牛丼戦争の中で価格戦略がぶれながらも安部氏が守り続けた『吉野家の味』の拠所であり、現場の苦労を思うと心が折れそうになりながらも牛丼なし営業を貫いた安部氏の経営の拠所だった」と推察する。

 また、安部氏は07年3月に行った書籍『吉野家 安部修仁 逆境の経営学』(日経BP社/戸田顕司)の出版記念講演会の中で「吉野家にとってオリジナリティは最も大事な価値。ただ、オリジナリティには、そこへ至るための挑戦と革新が不可欠になる。オリジナリティを追求する過程で問題にぶち当たった時、それを克服するための発想転換、方法論の転換、道具の転換、そうしたさまざまな転換を何度もクリアしなければ前進できない。換言すれば革新と革新のための挑戦の連続の果てに、オリジナリティが結果として生まれてくる」と語っている。

 同社OBは「安部さんのこうした柔軟でアグレッシブな考え方が社員のモチベーションを高めた。だからどんなに業績が悪い時期でも人望を失わず、社内が暗くならなかった」と振り返る。

「外食産業有数」と評価が高い吉野家の現場力を鍛えたのは、そんな安部氏の経営手腕だといわれているが、そんな安部氏だからこそ、「鮮やかな退任」を果たすことができたのではないか。
(文=福井晋/フリーライター)

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