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JTB偽装事件、何が社員を隠蔽に走らせた?横行する自爆営業、なぜ社員は受け入れるのか?

取材・文=丸山佑介/ジャーナリスト
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–自らミスの対処ができず、なおかつ上司にも報告しないで隠蔽工作をしようとしたJTBの元社員と同様、上司に失敗を報告できない社風というものは、ほかの企業にもあるのでしょうか?

樫田 本来、労働の対価として正当な賃金をもらってまっとうな生活を送るための場所が会社です。それが自爆営業では会社のマイナスを社員に負担、尻拭いさせてしまうのです。日本郵便の非正規社員が年賀状販売ノルマを課されて、売り上げが立たないと自分で買い取ったりするのがわかりやすい例です。昨年、菅義偉官房長官が記者会見で指摘し、広く知られるようになりました。旅行業界でもチケット販売の売れ残りを自腹で買い取らせるような自爆営業は横行しているし、運送業では車のリース代や燃料代が自腹、アパレル販売なら残業代なしで売れ残り商品の買い取り強要など、ニュースにならないだけで多くの業界で社員の自爆営業は見ることができるのです。

 さらに注目すべきなのは、自爆営業が起きている現場では、高い確率でパワハラがあるということです。罵倒、叱責、損害の自腹補填、評価を下げる、解雇を示唆する……などが繰り返され、上司の評価を極端に気にするあまりミスを報告できないばかりか、職業倫理や法律に違反することよりも上司のパワハラを恐れる社風が出来上がってしまうのです。そうなると、隠蔽工作に走ってしまう社員がいても不思議ではありません。

–なぜ社員に経済的にも精神的にも大きな負担になる自爆営業のような理不尽を、会社は強制するのか? そして、社員たちは、なぜ受け入れてしまうのだろうか?

樫田 多くの人は、自分が自爆営業をしていることや、そのような行為を強いる会社にいると自覚していません。そういう会社で先輩や上司になっている人たちは、自分が乗り切った経験から、試練が自分の人生の肥やしになると考える人が多いのです。そんな試練を乗り越えた人は同期の中でもごく一部のはずで、誰にでも当てはまることではありません。それなのに、自分たちがやってきたことだからと強制してくるのです。一方で、強いられる側は、ほかに比較できるお手本がいないので、これが当たり前のことだと、その環境を受け入れてしまうのです。

●自爆営業に陥らないために、どう対処するべきなのか

–自爆営業が起こる環境について伺いましたが、打開策はあるのでしょうか?

樫田 顧客や上司に謝罪してミスを挽回するのではなく、ミスを隠蔽することに労力を割く社員が生まれてしまう。その原因は、社員教育が不足していることにあります。社員教育とは数日間の研修ではありません。先輩や上司の仕事に対する姿勢、背中を見せることです。それはすなわち社風を身に着けていくことでもあります。ミスをどうやって挽回するのか、ミスの程度が挽回可能なレベルなのかなど、そういう判断ができる社員教育を充実させなければ、本人たちにはどこまでが取り返しのつかないミスなのかわからないのです。

–JTBの社員のように、追い詰められて一人で抱え込んでしまうタイプの人は、どのように対処するべきでしょうか?

樫田 会社で理不尽な扱いを受けていたとしても、同じような状況にあり悩みを共有できる仲間がいれば相談することもできます。しかし、中小企業だと社内では難しいこともあるでしょう。そういうときは社外に助けを求めてみることです。

 正規・非正規に関係なく一人でも入れる組合というのはいくつもありますし、NPO法人POSSEのように労働相談に応じてくれる団体もあります。大事なのは一人にならないこと、一人で抱え込まないことです。誰かに相談して自分の現状を冷静に見極めることから始めてみてください。メールで相談に応じてくれる団体も多くあります。まずは「自爆営業」ということを知るところから始めるべきなのです。
(取材・文=丸山佑介/ジャーナリスト)

●樫田秀樹
1959年、北海道生まれ。岩手大学卒業後、NGOのスタッフとしてソマリアの難民キャンプで2年間活動したあと、マレーシア・ボルネオ島の熱帯林の先住民族と関わったことを機に、マスコミが扱わない環境問題や社会問題などの取材活動に入る。ハンセン病を描いたルポ『雲外蒼天』で、第一回週刊金曜日ルポルタージュ大賞報告文学賞を受賞。

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