NEW
高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

成長続くイケア、果たして安泰か?郊外型、購入への障壁…迫られる消費者意識の変化への対応

【この記事のキーワード】

,

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「イケア・ジャパン HP」より
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 世界最大の家具チェーン店のイケアは現在、日本国内に大型店7店舗を構え、7月17日には仙台市に8店目の開業が予定されている(当サイト記事『イケア、年間来客数2000万人の秘密 地域特性に合わせた魅力ある店舗づくりの仕組み』参照)。

 2012年に開業したイケア福岡新宮店(福岡県糟屋郡)では、周辺の競合店にも波及効果が表れた。同店に近く、九州の大動脈・国道3号線沿いにある「中村家具」もその1つ。2年が経過した現状を聞いてみた。

「イケアが開業して以来、当店の知名度も上がりました。開業後1年間は売り上げが大きく拡大。その反動を心配したのですが、依然として前年比プラスです。『イケアにも行ったけど疲れた』という年配の方、『この店のほうが落ち着いて選べる』という30代の方もいました。お客様は好みに応じて使い分けているようです」(中村家具・新宮店の尾崎純子店長)

 同社とイケアでは取り扱う家具が異なるが、単純に販売価格を比較すると割高(同社では「良品安価」と訴求する)だ。しかし店員にじっくり相談もでき、購入した家具の引き出しに “ろうびき”(艶出しや滑りをよくする作業)を行うなど、サービス面も充実させている。

 そもそもイケアは、素材から大量調達して同じ製品を数多くつくり、物流手法も工夫してコストを下げることで低価格の家具を実現してきた。

 創業者であるイングヴァル・カンプラード氏が記した同社のバイブル『ある家具商人の書』(イケアコンセプト)には、「利益が資源となる――イケアは、最安値、高品質、経済的な製品開発、賢明な仕入、コストダウンによって利益に到達する」と記されている。

 イケアはまた、店を訪れたお客のセルフサービス(自分で家具を持ち帰り、組み立てる)にすることで販売価格をさらに抑えている。配送サービスや組み立て作業をお願いすると別料金がかかり、低価格の魅力が薄れてしまう。大きな家具は購入者が自家用車で持ち帰るのが一般的だ。

 しかし、このビジネスモデルは将来的に安泰だろうか。

●高齢になると生活スタイルが変わる

 キーワードとなるのは高齢化社会だ。日本国内での高齢者人口は増え続けており、現在は約3186万人、全人口の4人に1人が65歳以上となった。この状態が続けば20年後には3人に1人が65歳以上になる見通しだ。

 20代や30代で結婚して子どもを持った世帯では、65歳を過ぎれば成人した子どもが家を離れるケースが多い。そうなると住まいや生活スタイルを変える人も出てくる。話を聞いた他業界の経営者2人が、同じ現象を指摘していた。

・大手住宅設備メーカー社長

「子どもが独立して夫婦2人暮らしとなった世帯が、古い家を改築して部屋数を減らしたり、郊外の一戸建てを処分して都心のマンションに移るケースも増えています」

 子育て中は必要だった部屋数も家族が減れば余る。自宅の庭いじりが趣味だった人も、加齢とともに億劫になりやめる人も目立つ、といった理由からだ。そこで、この住設備メーカーは改築需要に応えるため、小家族向けの浴槽や洗面台などを開発している。

・大手ドラッグストアチェーン社長

「最近は住民の都心回帰も進んでいます。弊社が本社を構える北海道は雪による弊害が多く、高齢になると雪かきも大変です。郊外の一軒家から町なかのマンションに引っ越す人も増えました」

 また子育て後の老夫婦2人では食事内容が簡単になることも多いので、このドラッグストアでは都心駅周辺の徒歩圏内に店舗を増やし、医薬品とともに冷凍食品を充実させている。

 こうした他業界が取り組む戦略と、イケアの「郊外型店舗で販売し、家具を自家用車で持ち帰る」という戦略は正反対だ。

●「自分で家具を組み立てる」コンセプトが今後も受け入れられるか

 現在、イケアが販売する家具は世界共通サイズである。それを「生活提案」で日本の消費者に訴求してきた。同じイケア製のベッドで枕やシーツを替えた2種類用意して、異なる世代に訴えている。たとえば水色や青の水玉デザインの場合は20代や30代向け、これをアイボリーや薄いブラウン系に替えたものは、60代や70代向けといった具合だ。

 低価格の家具とともに、こうした提案がイケア成長の原動力でもあったが、家具は大型サイズも多い。各店舗を視察すると高齢の来店客も目立つが、筆者が見た限りでは、家具を購入するのは中年以下の客が多かった。

 次に、年齢以外の部分で考えてみよう。

 実は日本の消費者は、家具にあまりお金をかけない。家具の国内総販売額は、この20年で半減してしまった。大人1人当たりが家具に使うお金は、年間約7000円。10万円以上を使う洋服など服飾費に比べて圧倒的に少ない。

「家具は一度買えば長年使うもの」という消費者意識もあるのだが、部屋の模様替え感覚で気軽に購入できるイケアの低価格家具には、この意識を打ち破るチャンスがある。

 それには「購入への障壁を低くする」工夫も必要だろう。アマゾンなどのインターネット通販が拡大した理由の1つには、ネットで注文すれば商品を届けてくれる点も大きい。

 現在のイケアはネット通販に対応しておらず(イケア製品を取り扱う代行店はある)、店頭でしか買えない。先ほど紹介したように、買った家具を配送してもらうと別料金だ。

 また、家具を自分で組み立てることが好きかどうかは、年齢に関係ない。筆者の取材では「イケアの家具は好きでよく買っている」という人もいれば、「気に入って購入したが、組み立てるのに手間取ったのでもう買わない」という人もいた。

 ユニークな雑貨類も魅力のイケアだが、やはり売り上げ拡大を支えるのは家具だ。日本の消費者の声を聞いて改善することで一段と成長した同社が、今後、消費者意識の変化に対応して、新たな「生活提案」をしていくのか。その動向を注目していきたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト)

高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント) 
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。
セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)、『「解」は己の中にあり』(講談社)ほか、著書多数。
E-Mail:takai.n.k2@gmail.com