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多国籍化する浅草界隈、なぜ外国人旅行者増?地元発のグローバル戦略と、地道な努力

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東京・浅草(「Thinkstock」より)
 東京スカイツリーが2012年に開業してから、浅草界隈の様相が急激に変わった。国内からの観光客ばかりではなく、海外からの旅行者も急増しているのだ。その背景を探ると意外なことが見えてくる。

 安倍晋三首相は、日本経済再生戦略の一環としてクールジャパン(日本の文化やソフトの輸出促進政策)を掲げ、「クールな日本」を海外に売り込むために13年度予算で財政投資として500億円の予算が計上された。海外からの浅草訪問客増加の背景には、そのような国の政策が影響しているようにもみえるが、実際にはそれとはまったく関係なく、地元のアイデアと心意気がもたらした、これまでの努力の結果だといえる。

 浅草地区に外国人旅行者が増え始めたのは、約10年前からだ。浅草の近くにはかつて山谷と呼ばれた日雇い労働者の溜まり場があった。ところがバブルが崩壊した1990年代以降、労働者の姿が消え、彼らが定宿にしていた木賃宿は外国人相手の廉価なホテルに姿を変えていった。

 そして、界隈に格安志向のバックパッカー的な外国人観光客が増えたのを契機に浅草地域でも2006年にサクラホステル浅草が開業し、隣町の蔵前でもケイズハウス東京がオープンした。これらはバックパッカーズホステルと呼ばれ、相部屋だと一泊3000円、ツインでも一人当たり同4000円ほどで泊まれる。これら格安ホステルは海外でも若者をメインにした宿泊として知られているが、今は年齢に関係なく旅行者を受け入れている。

 サクラホステルのウェブサイトは、英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語(簡体字、繁体字)、韓国語、タイ語など10カ国語に対応しており、多国籍な自社スタッフが翻訳している。アクセスも世界中から一日当たり2000ほどあり、まさにスタッフの実力が生むグローバル展開だといえる。

 興味深いことに、浅草、蔵前地区ではサクラホステルとケイズハウスはライバル同士だが、一方が満室の時には相互で連絡をとり顧客の便宜を図っている。同地域でも最近はアパホテルや東横インなどの全国展開チェーンのビジネスホテルがシングル価格で一泊4000円を切るなど、価格競争が一段と激しさを増し、ホステル系も値引き合戦の余波を受けている。

 しかし、客の9割ほどが外国人のホステル系は、予約から宿泊まですべて英語や自国語で済ますことができ、日本語で苦労することはない。まさに、日本の中の「外国」だ。宿泊している利用者に聞いても、「泊まり客も外国人ばかりで気が楽です」という人が圧倒的に多く、それがホステル系を使う理由だという。

 テレビ東京の『Youは何しに日本へ?』という外国人旅行者の追っかけ番組が人気を呼んでいるが、浅草・駒形地域に宿泊する海外からの格安旅行者は、実にのびのびと旅行を楽しんでいる。これが500億円をかけたクールジャパンの官製キャンペーンとは無縁の世界で繰り広げられているのは皮肉な事実だ。

 電通や博報堂などの大手企業は、億単位の国家予算を使って世界を相手にクールジャパンの宣伝をしているが、その効果は不透明だ。その一方で、これらホステルに代表される地元密着型ビジネスは、最少の予算で自分たちの手により浅草を世界有数のコスモポリタン(多国籍)な街にしてしまったようだ。
(文=塚本潔/経済ジャーナリスト)