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なぜITは産業成長の軸になれない?中国の田舎で日本の熟練工と同じことができる時代

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インドのハイテク企業集積地、バンガロール郊外のBagmane Tech Park(「Thinkstock」より)
 政府の掲げる成長戦略の中で「IT」という文字がよく出てくるが、IT産業は成長戦略の軸にはなれないのではないか。政治家や官僚が持つ最も単純なイメージでは、デジタル情報家電の工場を地方に誘致して、輸出を行い、雇用を生み出し、地方振興と経済成長を実現するというものだ。だが、今どきこのような図は、ファンタジーにしか見えない非現実的な夢である。

 家電メーカーなどの電機系企業にとって、デジタル情報家電事業は業績不振のお荷物事業で、電子機器用部材、製造装置、重電など他の事業分野の利益でその不振の穴埋めをしている。地方振興に役立つと感じることはできない。
 
 さすがに政府の成長戦略でも最近では、正面からIT産業の振興を成功の軸と謳うのは珍しくなってきたが、ビッグデータやクラウド関連ビジネスの拡大や、農業・医療でのIT利用促進は、よく語られる。しかし、本来フラットで自由な土壌を好むビッグデータやクラウド関連ビジネスの成長には、政府が表に出てくるほどマイナスであって、政府は最小限必要なルールづくりに精勤すべきだろう。また、農業・医療はそもそもITの導入が大きく遅れており、成長というよりも不効率・不健全を是正するのが精一杯で、新たな巨大市場を生み出す成長戦略の軸というようなものではない。

 IT産業の基礎となるデジタル技術は、もともと日本の企業や社会に向いていないのではないか。デジタル技術という言葉は、「先進性」のイメージを喚起するが、デジタル技術の本質は先進性ではなくてコピー容易性だと思われる。だからこそ2000年代、日本企業は一時デジタル情報家電ブームに沸いたけれども、あっという間に中国工場を大規模に活用する台湾系EMS(製造受託企業)と韓国サムスンに追い抜かれた。デジタル技術は、本質的に日本の成長戦略の軸にはなれないと考えられる。

 情報は、文字や言葉で伝達できる「形式知」と、伝達できない「暗黙知」がある。デジタル情報はあらゆる情報を「0」と「1」で記述するものであり、定義的に「形式知」である。従って、デジタル技術も本質的に「形式知」であり、劣化することなく容易に移転、蓄積し、繰り返し取り出すことができる。アナログデータであった昔のレコードでは、長期間保存し再生するごとに音質が劣化したが、CDからネット配信へと、デジタル化が進むほどに、音質が劣化することなく、容易に移転、蓄積し、繰り返し再生できるようになった。こうしたデジタル技術の本質は、ひとことでいうとコピー容易性だ。

 コピー容易性を本質とするデジタル技術は、新興国の工場に容易に技術移転できる。00年代の中国のように、所得が少なく字が読める労働者が大量にいる地域なら、短期間のうちに安くて高品質のIT製品を大量製造することができる。そのような工場に、日本の企業はまったく歯が立たなくなってしまった。