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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第21回

USJの行列、ファストパス導入で待ち時間は長くor短くなる?弱者有利の行列の経済学

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ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(「Wikipedia」より/Momopy)
 数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

 先日、暑い夏日に鰻を食べに出かけたときのこと。行きつけの評判の店が新宿にあり、混むのはわかっていたので少しだけ早い時間帯に自宅を出た。ところが途中でつい書店に寄ってしまったのが失敗で、お店についたら行列というか人だまりができていた。18時を過ぎると、いつもこうなるお店なのだ。

 順番を見ると8番目だったので、まあいいかと待ち行列に加わることにした。そう決めてから後悔したのだが、このお店、酒呑みに評判のお店で常連客はまず骨せんべいなどのつまみと酒から注文して、最後にうな重でしめる。だからお店の回転率は意外と悪い。案の定、30分待って店内に入れたのは3組だけで、その後も外で待つ客が店内へ入るのはぽつりぽつりというペース。ところが1時間ほど待ったところで、私の前に名前を書いた人たちが3組とも離脱した様子で、突然入店することができた。

 私は行列に並ぶのが嫌いだ。けれども簡単に割り切れるものではない。行列に並ぶことで失う時間、これが非常に貴重だ。その一方で、行列に並ぶことで得られる対価はたいがい大きい。それはそうだ。レアなイベントに参加できるとか、びっくりするような価格で商品を購入できるとか、舌がとろけるほどの上質な鰻を口にできるとか、何か理由があるから人は行列をつくる。その機会損失をあきらめてでも、行列に並ばないと決めることが多いので、私にとっては行列に並ばないのはいつも苦渋の決断なのである。

 7月、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)内の新エリア「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」がオープンし、人気のためアトラクションの待ち時間が4時間半にも及んでいると話題になっている。私は「絶対に並ばないぞ」と苦渋の決断をしつつ、一方で対価を求めて行列に並びたいという欲望に負けてしまわないよう、「当分大阪にはいかないぞ」と心に決める。

 この「行列の経済学」では、苦渋の決断で行列に並ばない人を振り落とした結果、残った人の数は、その行列の先にある対価の価値に比例する。行列が長いほど、その行列の先にあるものは得難い商品やサービスであり、行列に並ばないで手に入る場合は、それに比べて価値が低いかないしは価格が高いものになる。

 ここに行列の経済学的な不都合な真実がひとつ発見できる。それは行列とは金持ちの人を優先的に振り落としていく仕組みだということだ。正確には、行列は機会コストが高い人から順に振り落としていく。1時間に数万円の給料を稼ぐようなビジネスパーソンにとっては行列に4時間半並ぶだけで10万円の機会コストになる可能性がある。だから行列は平等なように見えて、実は弱者に有利な社会ルールなのである。