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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏(8月19日)

軽井沢名物モカソフト、40年以上人気の秘密 生産の大規模&効率化に逆行戦略が奏功

文=高井尚之/経済ジャーナリスト

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 夏休みシーズンが続き、年間約770万人が訪れる人気観光地・長野県軽井沢も多くの人でにぎわう。東日本旅客鉄道(JR東日本)軽井沢駅から続く軽井沢旧道(旧中山道)に、名所的存在の喫茶店がある。「ミカドコーヒー」(ミカド珈琲商会)だ。

 本店は1948年に東京・日本橋室町で創業して今年で66年、軽井沢旧道店は52年開店なので今年で62年の歴史を持つ。同店では、今でも世代を超えてお客に愛される商品がある。その代表が「モカソフト」だ。

●3000本売れても、手づくりの味を守る

 
 ミカドコーヒーが、軽井沢でモカ味のソフトクリームを発売したのは69年。大阪で万国博覧会が開催された前年、日本経済が高度成長に沸いていた時代だ。現在でも最盛期は1日に3000本売れる日もあるというが、モカソフトのつくり方は、発売当時から変わらない。

 人気の秘密は、手間をかけた手づくりの味だ。深煎りしたコーヒー豆をドリップして淹れ、そのコーヒーにミルクを混ぜ合わせて、少し冷ました後でアイスクリームの機械に入れてつくる。工業製品とは違い手間がかかるが、1日で売り切れる分だけを仕込み、つくり置きもほとんどしない。

 お客からは見えない部分だが、そんなこだわりも人気の隠し味といえよう。

 同社は、もともと皇室が軽井沢に滞在した際に御用邸へコーヒー豆を納入し続けた会社で、今でも主力事業はコーヒー豆の販売。直営店で出すコーヒーも人気だ。モカソフトは、そのコーヒー豆販売店がつくる手づくりの味で訴求する。国内の各直営店でも提供しており、長年続く人気商品なので、実際に食べた人もいるだろうが、甘すぎずコーヒーが主張しすぎない味だ。

 モカソフトの価格は、テイクアウトは300円だが、店内で食す場合は430円となっている。ソフトの器としては、カップとコーンが選べ、カップには自家製シロップに漬けたプラムが添えられる。

 このように座席を利用すると価格が変わるところにも、ミカドコーヒーの歴史が反映されている。拙著『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)でも触れたが、同社の本店は日本で最初にセルフカフェを始めて人気となった店なのだ。

 セルフカフェの業態を始めたのは80年に東京・原宿に1号店を出した「ドトール・コーヒーショップ」と思われているが、実は違う。55年前後にミカドコーヒー創業者の故金坂景助氏(同社のキャラクター“ミカドおじさん”のイラストも同氏作)がスタンドコーヒー(イスがない立ち飲み式)として、座って飲むコーヒーが当時一般的に60円ぐらいだったのに対し、約半額の30円で提供した。76年のドトール・コーヒー創業よりも20年以上前の話だ。

 そんなアイデアマンだった金坂氏が開発したのがモカソフトなのだ。

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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