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江川紹子の「事件ウオッチ」第11回

産経新聞に牙を剥いた「言論の自由」軽視の韓国 国内メディアの鈍さも浮き彫りに

文=江川紹子/ジャーナリスト

●日本より先んじている、韓国の取り調べ

 日本について誤った印象を与える、もしくは政府に批判的な情報をしばしば伝える海外メディアもある。そうしたメディアの記者の刑事責任を問うたり、禁足を命じるなどしたら、「日本には言論の自由、報道の自由はあるのか」と笑われるだろう。日韓関係には、その歴史的経緯など特異な事情もあるが、それによって言論の自由にダブルスタンダードを作ることがあってはならない、と思う。東亜日報社説のように、産経新聞に対する規制を求めるというのは、言論・報道機関が言論の自由に箍(たが)をはめようというものではないのか。韓国のメディアには、少し頭を冷やしてもらいたい。

 その一方で、刑事の手続という点では、「さすが韓国」と言いたくなる点もあった。

 加藤支局長は、産経新聞社がつけた弁護士と通訳を伴ってソウル中央地検に出頭し、事情聴取を受けた。この弁護士と通訳は、終始取り調べの場に立ち会うことができた。取り調べ自体は、検察側が用意した通訳を介して行われたが、その訳が正確であるかどうかを産経の通訳がチェックすることができた。加藤支局長に対して特別待遇をしたわけではないだろう。韓国では、日本よりはるかに早く、取り調べの録音・録画(可視化)が始まり、弁護人が同席することも認められる。

 日本では、やっと法制審議会特別部会で、裁判員裁判対象事件と検察特捜部による独自捜査事件に限って、可視化を行う提言がまとまったばかりだ。刑事事件の取り調べに関しては、韓国が先んじていると言わなければならない。私が事実を確認した産経新聞の広報担当者も「(韓国では)こんなことができるんですね~」と驚いていた。

 また、日本も、言論の自由に関して韓国を笑っていられる状況ではない。昨年7月の参議院選挙の直前、TBSのニュース番組が紹介した市民団体のコメントに自民党が反発。番組では、安倍首相の発言がむしろ多く紹介されていたのだが、自民党側は「わが党へのマイナスイメージを、巧妙に浮き立たせた」として、TBSの取材拒否を決めた。結局、公示前にTBS側が謝罪文を出して取材拒否は終わったのだが、政権与党のこうした振る舞いは、「選挙が近い時期に批判は許さない」という態度に見えた。しかも、巻き添えを恐れたのか、ほとんどのメディアが、自民党の対応に批判をしなかった。

 今回の、産経新聞に対する韓国政府の対応に対しても、他のメディアの反応は、私にはかなり物足りない。

 批判的な、あるいは価値観の異なる言論に対して、どれほど寛容でいられるかで、その政権の“民主主義度”が分かるように思う。また、1つのメディアの言論の自由が脅かされている時に、他のメディアがどういう対応をするかで、その国のメディアの質や“言論の自由度”が見えてくるのではないか。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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