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今枝昌宏「ビジネスモデル考」(9月30日)

メーカーが迫られるユーティリティモデルへの転換とは?販売・保守から機能提供へ

文=今枝昌宏/エミネントLLC代表パートナー
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 その理由としては様々あるが、要員の数が少ない初期的なサービスでは、要員の質を確保することができ、管理者の目が行き届くうちは要員によるサービス提供がよく統制されているが、要員の数が多くなるにつれて統制が取れなくなるために、品質と効率が低下してしまうことが挙げられる。要員の質という意味でも有能な人材を必ずしも確保できなくなる。サービスは、製造業における製造や物流と異なり、目に見える物理的に定まったプロセスがない。サービスの規模を大きくするにつれて、その仕組みをITなどを活用してつくり込む必要があるのである。そこには、製造業にないノウハウが必要なのだ。

●サービタイゼーションからレーザーブレードへ - 実質的な従量課金

 ところで、製品販売のみならず、製品のライフサイクル全体をビジネスの対象とすると、レーザーブレード(Razor/Razor blade)というビジネスモデルが採用されるようになる。ジレットがカミソリを安価で販売して替刃で儲けたように、製品自体を安価に販売して、顧客がその製品の保守や消耗品を買わざるを得ないことを利用して、比較的高額に値付けして儲けを出していくというビジネスモデルだ。

 このような顧客にとっては「罠」とも思えるビジネスモデルが成立する理由は、拙著『ビジネスモデルの教科書』でも述べているが、製品が高く消耗品が安いというキャッシュフローの変化が、顧客にもそれなりのメリットとなるからである。つまり、キャッシュフローが実際に使った分だけ課金されるのと実質的に似通ってくることによって、顧客としてはどれだけ使うかわからないというリスクを回避でき、投資リスクが軽減されるからだ。

●最終的にはユーティリティへ

 こうした流れを更に推し進めると、究極的には提供価値の内容は製品の販売・保守から、製品による機能提供自体へと変化していくことになる。これは、ユーティリティ(Utility)と呼ばれるビジネスモデルである。ユーティリティとは、発電機を売るのではなく電気を売るというように、製品の生み出す効用を、使ったら使った分だけを課金するモデルだ。

 しかし、ここで注目すべきことは、ユーティリティに至ると、現状では必ずしも製品のメーカーが優勢ではないということだ。コピー機などではコピー枚数に応じた課金がリコーなどのメーカーによってなされているものの、ITにおけるクラウド事業、自動車のカーシェア事業などにおいて、メーカーが主導している例はむしろ稀である。ユーティリティはサービタイゼーションの先にあるモデルであり、サービタイゼーションと同じ理屈でメーカーが有利と思われるが、それにもかかわらずメーカーが市場を支配できていない理由は、このモデルでは現在の顧客である機能提供事業者と衝突してしまうことや、製品販売では製品を販売する際に一括して売り上げに計上できていたものが、ユーティリティになると製品の効用を切り刻んで売ることになり、一旦売り上げを落とすことになりかねず、メーカーとしてはモデルの転換を躊躇するからだろう。さらにメーカーには課金モデルや仕組みについての知見が不足している点も見逃せない。

今枝昌宏

今枝昌宏

エミネンスLLC代表パートナー。京都大学大学院法学研究科、エモリー大学ビジネススクールMBA課程卒業。ジャパンエナジー(現JX)、PwCなどのコンサルティングファーム、買収ファンドであるRHJI(旧リップルウッド)などでの勤務経験を持つ。著書に『ビジネスモデルの教科書』『サービスの経営学』など、訳書に『戦略立案ハンドブック』(いずれも東洋経済新報社)がある。ご連絡は、imaeda@eminent-partners.com まで。

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