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テレ東『大食い王』、新陳代謝で進化の歴史 鼻水垂らし必死→可愛い&ドラマ性へ

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『元祖!大食い王決定戦』公式サイト(「テレビ東京 HP」より)
 主要なテレビ番組はほぼすべて視聴し、「週刊新潮」などに連載を持つライター・イラストレーターの吉田潮氏が、忙しいビジネスパーソンのために、観るべきテレビ番組やテレビの“楽しみ方”をお伝えします。

 斬新でも奇抜でもないのに、ついうっかり観入ってしまうテレビ番組がある。テレビ東京の『元祖!大食い王決定戦』である。ただ「大食いを競う」だけだが、歴史は長い。MCの中村ゆうじの軽い受け流し力と大食い選手たちとの親和力は定番になっている。基本、食べるだけなのだが、次々と新人が登場し、タレント化する逸材もいる。「特技・大食い」も立派な芸だと、あらためて痛感するのだ。

 出場する選手たちによって、うっすら世相を垣間見ることもできる。かなり昔は男も女も必死の形相で鼻水垂らしながら口に詰め込む姿が主流だった。思い出すのは、女王・赤坂尊子さん。彼女の「なりふりかまわぬ喰いっぷり」は記憶に残るほど。その後は、ギャル曽根の登場と視聴者の批判の声のおかげで、「品よく行儀よく食材に感謝して食べる姿勢」が横行。赤坂マインドは、“魔女”菅原初代さんに引き継がれたのだが、ギャル曽根マインド(メイク崩さず、飯こぼさず、可憐に咀嚼&飲み下す)のほうが台頭したわけだ。

 その後、佐藤綾里さん(アンジェラ佐藤)、佐藤ひとみさん(ロシアン佐藤)、三宅智子さん(エステ三宅)など、ビジュアル的にも大食い能力もギャル曽根を上回る人材が続々登場(個人的には2012年春の女王になった、正司優子さんが好きだった)。

 とにかくみんな可愛い・美人・おしゃれ。もうこのあたりから、「大食い=女性」の構図になりつつあった。ガリガリに痩せた、決して見目麗しくない男性が必死こいて食べまくる姿よりも、見目麗しい女性のほうがウケもいいわけで。大食いしながらも受け答えの明るさや面白さ、タレント性があるのは俄然女性たちだった。今のご時世、大食いの世界でも、基礎代謝の高い男より社会性のある女のほうが優位に立つのだなぁと感心する。

 で、9月28日放送回を観た。アイドルや元ミス鎌倉、メイクアーティストなど、今回もこれまた見目麗しい女性たちが大活躍。そもそも男性陣が少ない。優勝したのは、ロン毛の飄々とした男性・なべちゃんこと渡邊康仁さん。飄々とした、としか言いようがない新人王者が誕生したのだった。タレント性は微妙だけれど、その徹底した飄々ぶりには好感がもてた。

 気になったのは、大食いの舞台演出。田んぼの真ん中で、幅広の滝が流れる絶景で、と趣向を凝らしているのだが、「食材調達が間に合わないかも」的な演出でスタッフおおわらわ。パスタ足りない、エビ足りないって、「わかってんだったら用意しとけよ!」とツッコミどころ満載。途中で足りなくて、中断したのは演出ではなく完全な手落ち。決勝戦はタイの海っぺりだったのだが、まさかの大雨。しかも、その中でラーメンをすすらなければいけない選手たち。「早く傘さしてあげて!」と、これまたツッコむ。

 まあ、でもその緊迫感とかハプニング臭も、この番組の見どころなのかもしれない。「それだけ選手の食いっぷりが尋常じゃないんです」というアピールに貢献していたと思われる。今回は、男性選手のひとりが女性選手に惚れて、告白&フラれる、なんて演出もあり。ただ単純に食べるだけではないドラマ作りもあった。緩急つけることも必要よね。

 歴史の長い番組にはそれなりの工夫がある。人気コンテンツや逸材人物だけに頼らず、常に新陳代謝を繰り返す。ただし、番組の顔・MCの中村ゆうじだけは替えない。それも正解だと思う。ここ最近登場してくるゲストの照英が必要かどうかはわからないけれど……。
(文=吉田潮/ライター・イラストレーター)

●吉田潮(よしだ・うしお):
ライター・イラストレーター。法政大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。「週刊新潮」(新潮社)で「TVふうーん録」を連載中。主な著書に『2人で愉しむ新・大人の悦楽』(ナガオカ文庫)、『気持ちいいこと。』(宝島社)、『幸せな離婚』(生活文化出版)など。「週刊新潮」(新潮社)の連載記事をまとめた単行本『TV大人の視聴』(講談社)が11月11日に発売予定。